韓国の若者、「アッパ・チャンス」になぜ怒る? 大統領選を読み解く

有料会員記事韓国大統領選挙2022

聞き手・太田成美
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 韓国の大統領選が3月9日に投開票されます。長年にわたって保守と進歩(革新)の理念対立が続いていますが、今回は選挙のカギを20~30代の若者が握るとされています。なぜでしょうか。韓国の政治外交が専門の奥薗秀樹・静岡県立大教授に、この選挙の特徴や、行き詰まる日韓関係の展望を聞きました。

激動の現代史、年代で異なる視点

 ――今回の大統領選では、ミレニアル世代とZ世代を合わせた、20~30代の「MZ世代」がキャスティングボートを握ると言われています。

 韓国は激動の現代史で、どの時代を生きてきたかによって、世の中を見る視点が全く違うんです。20~30代と40~50代、60代以上の三つに分類できます。

 今の60代以上は、短い間にあまりにも多くのことを経験した世代です。日本の植民地支配からの解放に南北分断、同じ民族同士が殺し合う朝鮮戦争を経て、アジアの最貧国に分類される状態からスタートしました。そして、権威主義的な支配体制の下で、国民の自由や人権、民主主義的な価値はないがしろにしながらも、日本をも上回る速度で高度経済成長を成し遂げました。その後、政治的な民主化を実現し、現在のほぼ先進国と言って良い韓国に至ったのです。

 満足に食べることも難しかった時代を生き抜いたこの世代には、頑張ってこんなに豊かになったという自負があります。保守勢力が率いてきた時代の中で豊かさを実現したということで、イデオロギー的には保守で、最大野党「国民の力」支持が圧倒的に多いのが特徴です。

 40~50代は生活水準も向上し、成長よりも分配を求めるようになる世代です。1980年代に大学生として民主化運動に関わった60年代生まれという意味で「86世代」と呼ばれます。軍事独裁政権の打倒を叫んで激しい学生運動を行い、87年に民主化を勝ち取る中心的役割を担いました。文在寅政権の権力の核心に座っている人たちの多くがそうなのですが、民主化の時代を自分たちの手で切り開いたんだという自負があるんです。この世代は与党「共に民主党」を支持する進歩勢力が多数を占めます。

 では、MZ世代とはどんな存在なのでしょうか。高度経済成長も政治的な民主化も実現したIT大国の情報化社会で育った若者は、個人主義的で、保守、進歩の対立には全く縛られません。

 ――MZ世代以外は、投票行動の傾向がほぼ固まってしまっているんですね。

 高齢者層と86世代はそれぞれ保守と進歩が多数で揺るがず、開拓の余地があまり残されていません。韓国は少子高齢化が日本よりも急速に進んでいて、2021年の合計特殊出生率は0・81です。有権者の高齢化は年々進んでいます。ただ、まだ20~30代は有権者の3分の1を占めていて、世論調査でも無党派の割合が一番高い。だから各陣営ともMZ世代を攻略しようとしているのです。

 MZ世代は、アジア通貨危機リーマン・ショックなどを経て、低成長時代の超競争社会でもまれて生きてきました。それだけに、公正さや公平さを侵害し、正義に反する既得権の横暴には、理念を問わず敏感に反応します。かつては保守が既得権を長く握り、朴槿恵前大統領の長年の友人チェ・スンシル氏による国政介入事件では、娘を名門女子大に不正入学させ、国民の大きな怒りを買いました。若者は、その朴氏を弾劾(だんがい)・罷免(ひめん)に追い込んだ「ろうそく革命」を経て誕生した文在寅政権でさえ、既得権化し、権力を笠に着た不正を働いていると憤っています。

「保守も進歩も甘い汁」

 ――例えばどんなことでしょうか。

 「アッパ(お父さん)チャンス」という言葉があります。日本でいう「親ガチャ」です。受験競争の熾烈(しれつ)な韓国で、文氏側近の曺国(チョグク)元法相の子どもの不正入学疑惑が持ち上がりました。若者からすると、チェ・スンシル氏と何が違うんだと思えて当然です。

 それ以外にも、土地住宅公社…

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    箱田哲也
    (朝日新聞論説委員=朝鮮半島担当)
    2022年3月4日21時50分 投稿
    【解説】

     いよいよ韓国大統領選の事前投票(期日前投票)が始まった。初日の4日は17%余りの投票率を記録し、過去最高だったという。明日までの2日間限りだが、中央選管は30%超えを予想する。  両陣営とも事前投票を熱心に呼びかけるのは新型コロナが猛威