傷ついたイチゴも焼き菓子に使おう 畑の隣に洋菓子店 川崎
【神奈川】イチゴ畑のすぐ隣に、洋菓子店がオープンした。店を出したのは家族とともに農園を営む男性。傷ついたイチゴを廃棄するのが悩みの種だった。「生産者もフードロスに取り組み、持続性のある農業をめざしたい」。捨てるはずだったイチゴたちが焼き菓子に生まれ変わっている。
川崎市麻生区早野のイチゴ農園「SLOW FARM」内に洋菓子店「SLOW SWEETS」ができたのは今年2月。経営する安藤圭太さん(35)が、菓子づくりのプロの力を借りて開店にこぎ着けた。店頭に並ぶのはフィナンシェやマドレーヌなど。食べられるが、売りづらいイチゴが使われている。
安藤さんは麻生区内の野菜農家の長男として育ち、旅行会社を2018年に退職して家業を継いだ。イチゴを育てようと19年春に遊休田を借りて温室ハウスを建てた。現在、ハウス約2900平方メートルで4種類を育てている。
だが、20年の最初の収穫では大量のロスが生まれた。「消費者側のフードロスに目を向けられがちだが、生産者にとっても課題だ」と安藤さん。イチゴは傷みが早く、再利用は簡単ではない。そこで加工品の開発に踏み出した。
その年の夏、菓子づくりのプロを募った。フリーランスのスイーツコンサルタントの関根夏子さん(45)=川崎市宮前区=にシェフとして商品開発を託した。関根さんがこれまで勤務していた洋菓子店でもイチゴを廃棄することがあった。
「もったいないな」と痛感していた関根さんと、安藤さんは意気投合した。関根さんはイチゴを深く知ろうと、苗作りから参加。こだわりの看板商品として「3日かけて作るいちごのフィナンシェ」(280円)を完成させた。廃棄されるイチゴをスライスし、2日(48時間)にわたり低温熟成させ、乾燥させる。うまみや栄養分が凝縮されるという。これをパウダー状態にして生地に練り込み焼き上げた。
店にはショートケーキも並ぶ。形の整ったイチゴはケーキの上に、傷のあるものは中に使っている。安藤さんは「365日見守り、手塩にかけたイチゴを無駄にせず、一粒でも多く届けたい」と話す。
洋菓子店(044・322・9492)は午前11時~午後5時。月曜・火曜日は休み。(佐藤英法)
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。