ロシアの原発攻撃は「恐喝外交」 世界が危ない、被爆地から訴え

ウクライナ情勢

岡田将平 聞き手・岡田将平
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 ロシアによるウクライナへの侵攻で、原発が攻撃されたことに対し、被爆地・広島から批判の声が上がっている。5日に原爆ドーム前であった侵攻への抗議集会では、広島と同じ「核の被害」を起こさないよう願う人たちの姿があった。専門家も危険性を指摘する。

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 「STOP THE WAR」「戦争反対」。5日、広島市の原爆ドーム前には約100人がプラカードなどを手にして集まった。広島在住のウクライナ人グループが呼びかけ、市民らも駆けつけた。

 広島市南区の高校1年、平石大志さん(16)は母がウクライナ出身で、ルーツはロシアにもウクライナにもあるという。侵攻について「対岸の火事と思って、ウクライナを見殺しにしていたら、国際秩序は崩壊し、次に火の粉が降りかかるのは日本の皆さんかもしれない。傍観者であってはならない」と訴えた。

 集会を企画した一人、広島市のアナスタシア・ホーチナさん(38)は原発への攻撃について「ウクライナだけ危ないのではなくて、ヨーロッパにも危ない、世界にも危ない」と危険性を訴えた。

 ウクライナでは旧ソ連時代の1986年にチェルノブイリ原発事故があり、となりのベラルーシにも被害が広がった。同国の首都・ミンスク出身のナジェーヤ・ムツキフさん(41)は5歳の時に事故があったことを覚えている。その後、自身の甲状腺にも異常がみられたという。原発への攻撃による被害を懸念し、「世界は黙ってみてはいけない」と語った。

 被爆者の体験などをホームページで国内外に発信している「ヒロシマ・スピークス・アウト」代表の浜井道子さんも集会に参加した。原発への攻撃を受け、「(爆発などがあれば)その後何十年も影響が続くということを広島、長崎の人が伝えないといけない」と話した。(岡田将平)

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 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、原発を攻撃したほか、「我々は最強の核大国の一つ」と誇示し、核戦力を含む軍の抑止力を「特別態勢」に移すよう命じた。プーチン氏の狙いや世界の核軍縮への影響などについて、ロシアに詳しい広島市立大の加藤美保子専任講師(国際関係論)に聞いた。

 ――ロシアはウクライナのザポリージャ原発を攻撃しました。

 ザポリージャ周辺での戦闘の継続は想定外の事故を起こしたり、原発の稼働に支障をもたらしたりする可能性がある。事故が起きればヨーロッパ全体への深刻な影響が予想される。

 ロシアの攻撃の理由として言えるのは、第1には、ウクライナの電力供給にダメージを与え、戦争の継続を困難にし、国民の忍耐をくじくこと。ウクライナは2014年のロシアによるクリミア併合後、燃料コストが低い原発への依存度を高めてきました。ザポリージャ原発をロシアに奪われたのは大きなダメージです。

 第2にヨーロッパ諸国、旧ソ連諸国などの人々に恐怖と不安を与えること。原発を人質に取られた場合、交戦国はロシアに報復を与えたくても、事後的にしかできなくなる。相手にロシアの条件を100%で飲ませようとする恐喝外交の手法と言える。

 ――核戦力の「特別態勢」を取ったプーチン氏の狙いは何でしょうか。

 ウクライナの「非武装化」とNATOに加盟しないという「中立化」の二つをのませるための威嚇だと考える。米国もドイツもウクライナに武器を供与すると言っているが、介入を抑止したいということだ。

 21世紀に入り、国連の安全保障理事会常任理事国であるロシアが明確な侵略戦争を行い、核抑止力を特別態勢に移し、交戦国とそれを支持する国を脅してきたことは衝撃的だ。冷戦が終わってから、核戦力の特別態勢に入るのは初めてだろう。

 プーチン氏が核兵器を絶対に使わないとは言えないが、(米欧などの)介入を抑止するためだと思う。先制使用すれば、反撃される。ウクライナとロシアの国民は親戚関係の人も多く、核兵器を使えば、国内でも批判は避けられない。政治的リスクを考えると使用しないと思う。ただ、核の運用の敷居が下がったことが今後、ロシアがかかわる紛争で怖い。

 ――ウクライナは1994年のブダペスト覚書で旧ソ連時代の核兵器を放棄しました。そのことが侵攻を招いたとの議論もあります。

 冷戦崩壊後のウクライナは経済の混乱が大きかった。ウクライナが核兵器を管理し、運用できたかは疑問で、放棄するしかなかったと思う。覚書では、核を放棄する代わりに安全と主権を保障するとされたが、保障されなかった。

 「核を放棄すれば、ウクライナのようになる」との言説は、北朝鮮にとって大きなメッセージになる。核を放棄した後に「金正恩体制が保障されるのか」「米国は信用できない」と言い始めてもおかしくない。

 ――世界の核軍縮への影響をどう考えますか。

 (米ロ間の唯一の核軍縮条約である)新戦略兵器削減条約(新START)は4年後に延長期限を迎え、それまでもその後も、核兵器を含めて軍拡競争が進む可能性がある。フィンランドスウェーデン、バルト3国などロシアの近隣諸国では、ロシアを警戒して軍備拡張に動く可能性は大きいとみる。

 ――日本国内の核兵器をめぐる議論への影響はどうでしょうか。

 安倍晋三元首相が、(日本国内に米国の核兵器を配備し、共同運用する)「核共有」に言及したが、最終的な核廃絶を目標としつつ、今の目の前の脅威に対処するために米国との協力を一段階上げるという議論が出てくるだろう。しかし、日本は唯一の戦争被爆国として、非核三原則を主張しなければいけない。ロシアのような国が核兵器を使うのをどう思いとどまらせるかという議論が必要だ。

 ――被爆地から、どう訴えていくべきでしょうか。

 実際、核の脅威にさらされているウクライナやベラルーシはチェルノブイリ原発事故の被害が大きかった。絶対に核兵器を使わせたくないと考えている人たちは旧ソ連圏にもたくさんいると思う。そういう人たちの運動と広島、長崎の声をつないで、世界に訴えていくことが必要ではないか。軍拡の方向に行く流れを止めるのは世論しかない。今こそ、核廃絶を改めて主張することが大事だ。(聞き手・岡田将平)