第6回「絶対に失敗するな」 上司の厳命、写真技師は石室に向かった
岡田匠
写真技師だった大八木威男(たけお)(88)の自宅に1本の電話がかかってきた。50年前の3月21日、午後7時をすぎたころだった。
「明日香村の高松塚古墳で壁画がみつかった。色がある。きちんと撮れ。絶対に失敗してはならない」
電話の相手は勤務先の京都・便利堂の上司だった。
便利堂は1887年創業の老舗で、全国でも数少ない文化財専門の美術工房だ。
上司は続けて概要を説明した。
発掘調査団を率いた関西大学助教授の網干善教が壁画を見つけたのは、わずか数時間前。その網干が便利堂に撮影を依頼してきた。
網干は「技術のあるカメラマン」を強く求めた。大八木に白羽の矢が立った。
父が宮内庁の職員だった関係…