災害時、自治体のトイレ対策は?

伊藤繭莉
[PR]

 大規模災害に備えて、千葉県内の自治体は、災害時のトイレの問題に取り組んでいる。東日本大震災などの過去の災害で、数の不足や衛生面など深刻な問題に悩まされた経験を踏まえ、対策を模索している。

 東日本大震災時、千葉県浦安市では、液状化した土砂が下水道管に詰まるなどして、水洗トイレが使えなくなった。最大約1万2千世帯に影響。市は112カ所で、組み立て式やボックス型の仮設トイレなど950基を設置した。だが問題は次々に起きた。

 当時、市環境レンジャー課にいた内田麻紀さん(53)は連日、掃除などのトイレ管理に追われた。「トイレを開けた瞬間、臭いし怖いし、入りたくないと思った」。組み立て式トイレは、便座のすぐ下の便槽が丸見えで、臭いがひどく、ウジ虫がわいてしまった場所もあった。和式トイレは足元が汚れ、滑りやすくなっていたところもあった。

 当時、市ごみゼロ課にいた五十嵐遼さん(32)が、「便槽がいっぱいだから、くみ取りに来て」という連絡を受けて組み立て式トイレに駆けつけると、便槽にはまだ余裕があった。レバーで排泄(はいせつ)物をならして使用するのだが、利用者が使い方を知らず、排泄物が山盛りになっていた。

 強風でトイレが倒壊したり、朝に列ができたり。男女共用で、夜にトイレ内で照明を使うと利用者の影が外に浮かび、安心して使えないという声もあった。

 市民の相談窓口を担当した村瀬さやかさん(45)によると、窓口には「トイレに行きたくないから食事や水を控え、体調を崩して入院した」という相談が寄せられたという。市は、既存のトイレにかぶせて使える携帯トイレ約30万枚をのべ約3万世帯に配布。市内全域で下水道が復旧するまで約1カ月かかった。

 震災で浮かび上がった問題を解決するため、市は、組み立て式などのトイレの備蓄を1千基まで増やし、防災訓練では組み立て式トイレの使い方などを市民に周知している。

 内田さんら女性職員8人は「ストレスなく、災害弱者も安心して使えるトイレを提供したい」と研究会をつくって対応を検討。市民らからアンケートをとるなどして、女性や子ども、高齢者、障害者に配慮したトイレのあり方を市に提案した。これを受けて市は、消毒用品や子ども用補助便座、掃除用具なども備蓄するようになった。

 他の自治体も、過去の災害を踏まえ、災害時のトイレの対策に取り組む。

 千葉県君津市は昨年、災害用トイレトレーラーを1台導入。車両につないで移動でき、洋式トイレ4室を備え、マンホールにつないで排水できる。2019年の台風15号で断水した際、静岡と愛知の3市町から同様のトレーラーが派遣され、市民から好評だった。担当者は「災害時に使用できるだけでなく、近隣の被災地にも派遣できる」と話す。

 千葉市では08年度から、災害用マンホールトイレの整備を進めている。下水道につながる複数のマンホールを整備しておき、災害時には、その上に仮設トイレを設置して使う。23年度までに避難所に指定された小中学校全166校に整備予定で、140校で整備済みだという。マンホール上に組み立てる仮設トイレは、普段は敷地内に保管している。(伊藤繭莉)

     ◇

 NPO法人日本トイレ研究所の加藤篤・代表理事は「発災後の時間経過で、水や食料より先に必要性が来るのは、トイレだ」と、その重要性を指摘する。

 水洗トイレが使えないのに、被災者が気づかずに使用し排泄物がたまる。次の人がその上から排泄し、不衛生になる。東日本大震災の被災地で起きたことだ。

 仮設トイレは、発災後すぐには届かない。同研究所の協力による29被災自治体への調査によると、7割近くで、仮設トイレが避難所に届くまでに4日以上かかっていた。

 汚いトイレを使いたくないので食事や水を控え、体調を崩し、関連死につながったり、不衛生なトイレから感染症が広がったりする恐れもある。

 加藤さんによると、対策では、必要な数や、設置場所や防犯対策などについて、自治体が事前につくるトイレの確保・管理計画などがポイントになる。内閣府も「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を示し、自治体に計画の作成などの適切な準備を求めている。

 また、加藤さんは、発災後の有効な初動対応として、携帯トイレを備蓄しておき、既存のトイレに取り付けて使用することを挙げる。「水洗トイレが使えないのに排泄したら、元に戻すのが大変。自宅や公共施設、避難所でも、同じ初動対応をしてほしい」と呼びかけている。