前回のあらすじ
「世界は小児性愛者の集団によって支配されており、悪魔の儀式として性的虐待や人食い、人身売買に手を染めている」という陰謀論を信じる「Qアノン」と呼ばれる人々。彼らが信奉する人物「Q」の黒幕を追いかける記者は、ある男に会いに行きます。疑惑の彼に記者は聞きました「あなたはQですか?」
マンションの玄関を開ける。隣人のドアの前に目をやり、そこに置かれたニューヨーク・タイムズの1面を見る。ため息が出る。
「きょうもまた、全部、フェイクニュースだ」
バレリー・ギルバート(59)の1日は、そうして始まる。「作家」と名乗り、スピリチュアルな小説を出版している。フロントデスクがあるマンハッタンの高級マンションで暮らす。
「Qアノンは存在しません。存在するのは…」
彼女は「Q」の熱狂的な信者だ。
Qアノン
「世界は小児性愛者の集団によって支配されており、悪魔の儀式として性的虐待や人食い、人身売買に手を染めている」という陰謀論、またはそれらを信じる人たちを指す。信奉者はそうした集団を「ディープステート」(影の政府)とみなし、民主党の政治家やハリウッドスターらが所属していると考えている。
陰謀論集団「Qアノン」は、「Qアノン」という呼称を嫌がる。彼らがよりどころとするQ自身が2020年10月、《「Q」がいる。「アノンズ」(名無したち)がいる。「Qアノン」はいない》と匿名掲示板に投稿したことによる。
ギルバートもこう言う。
「Qアノンは存在しません…