家庭教育応援条例案、本会議で発議へ 岡山県議会文教委が決定

中村建太
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 岡山県議会文教委員会は15日、「社会全体で家庭教育を支える」とうたう県家庭教育応援条例案を、18日の本会議に提案することを決めた。自民党県議団などの賛成多数で可決される公算が大きいが、「家庭のあり方の押しつけだ」などの批判も根強い。

 条例案は「子どもの心身の健やかな発達に寄与する」ことを目的とし、保護者に「学び、成長していく」ことを促すもので、自民党県議団が提案した。議会の過半数を占める自民と、公明党県議団が賛成している。

 これに対し、民主・県民クラブ(民県)は「強制や押しつけにならないことを担保すべきだ」などと、条文の削除や修正を求めてきた。15日の文教委では民県の高原俊彦県議が「様々な家庭があるなか、保護者らの自主的な考えを優先させるための条文を入れてほしいとお願いしてきたが、意見が一致せず残念だ」と述べ、提案に反対した。共産党県議団も反対の立場だ。

 県民からも批判が出ていた。昨年4月に自民党県議団が示した条例素案には、「子どもが将来親になるために学ぶことを促す」などの表現があったが、パブリックコメントを実施したところ、「子どもは親になるためだけに学ぶのではない」「家庭という私的空間に公権力が介入すべきではない」などの批判が相次いだ。自民側は数十カ所を修正し「子どもが将来親になる選択をした場合のために」などと改めた。15日の文教委の後、福島恭子委員長(自民)は「(修正で)誤解は解けたように思う」と述べた。

 一方、県議会の正面では、条例案に反対する市民グループが「議論不足だ」「条例は絶対制定しないで」などと訴えた。県議会事務局によると、同様の条例は熊本や茨城など9県で制定されている。

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 条例案の目的や問題点について、発案段階から中心的に携わった県議会文教委員長の福島恭子県議(53、自民)、素案に反対声明を出すなどした岡山弁護士会長の則武透弁護士(60)にそれぞれ聞いた。(中村建太)

福島恭子県議

 岡山市議だった2013年、全国初の「家庭教育支援条例」が熊本県で施行され、県内の公立小の教員から「岡山でも制定してほしい」と依頼された。親の教えが行き届かず、服装が乱れたり、教科書を持ってこなかったりする児童が多く、学校が学びの場になっていない――。教員らの訴えに危機感を持った。

 県議となり、19年秋に自民県議の仲間らと勉強会を立ち上げ、条例化の検討を進めた。条例によって熊本などは、住民や行政でつくるサポートチームの研修などが充実していて、県内にも必要だと一層感じた。

 教育基本法が定める通り、子どもの教育の第一義的責任は保護者にある。その保護者が困ったり悩んだりした時、助けられる環境をつくるのがこの条例だ。条例ができれば、子どもに関わる行政の縦割り解消が期待され、より有効な事業にもつながると考える。

 誤解を解くため、当初案からかなり修正した。ただ「子どもが将来親になる選択をした場合のために学ぶことを促す」といった条文には、なお「価値観の押しつけ」との批判がある。

 だが、そんなつもりはない。子どもがそうした選択をしてもしなくても、家事など家庭で学ぶことは重要だと言っているだけだ。

 本来はこのようなことをうたわなくても自然に子どもを守っていける状況になるのが一番。条例で掲げる「家庭」というのはあくまで理想の形だが、理想を示さないと状況の改善につながらない。

則武透弁護士

 まず条例をつくるための理由があいまいだ。前文で「家庭や地域の教育力の低下が大きな問題」と現状を捉えているが、その根拠はどこにあるのか。

 保護者が子の教育の第一義的責任を持つのは確かにそうだろう。だがどんな家庭教育をするかは個々の自由。そこは条例ではなく保護者の自主性に任すべきだ。家庭への公権力の不当な介入であり、個人の尊厳を定めた憲法13条などに反する。子ども側の権利や意見を尊重するための条文が条例案にないのも問題だ。

 条例案には「上から目線」も感じる。「知・徳・体の調和のとれた人格」といった文言もあるが、障害や病気を抱える人はどうなるのか。「子どもが将来親になる選択をした場合」という部分は、画一的な生き方を示すことにならないか。総じて一方的な価値観の押しつけが多い。こうした問題の本質は、条例案が修正された今も素案の段階から変わっていない。

 抽象的で罰則のない「理念条例」でも、影響を持たないとは言い切れない。社会の単位として、個人より家庭を重んじる空気が広がってしまう恐れがある。憲法に家庭のあり方を盛り込む動きにもつながり得る。

 そもそも今回の条例案は、判で押したように他県の同様の条例と似通っている。地域の特性や実情をふまえたものとは言えない。子どもを巡る社会課題を本気で解決するなら、教育予算や経済的支援の拡充など、個別の具体的な政策で対応すべきだ。