やましさを抱きながら、戦禍の地へ私たちは糸を伸ばす 東畑開人さん

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東畑開人さんの「社会季評」

 ウクライナから始めざるをえない。遠い国で突如戦争が始まり、国家の巨大な暴力が市民生活に降り注いでいる。連日報道されている凄惨(せいさん)な光景は、私たちに痛みや不安を引き起こし、他人事ではないと思わせる。だからこそ、SNSでは平和を求めるメッセージがシェアされ、各地で抗議運動が起こり、多額の募金が寄せられているのだろう。私がこうして文章を書いているのもそうかもしれない。遠い国へと糸を伸ばそうとする私たちがいる。

 ただし、この糸には一抹のやましさが織り込まれている。糸の向こうには、戦争のただ中にいて、被害とトラウマに苦しむ当事者たちがいる。だから、私たちはその戦争を我が事のように想像し、糸の先端を彼らにまで届かせたいと願う。しかし、糸の手元には、ミサイルも銃弾も飛んでこない安全な場所で、テレビやスマホに映る戦争を見ている私たちもいる。

 長く伸びた糸の先端と手元には温度差がある。我が事だと思いながら他人事でもあること、自分が当事者ではなくよそ者であること。ここにやましさがある。

とうはた・かいと 1983生まれ。臨床心理士。著書「居るのはつらいよ」で大佛次郎論壇賞受賞。新著「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」を今月発売。

 安易な懺悔(ざんげ)をした…

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