生きた3・11の教訓 「普段から使って備えを」 呼吸器の電源確保

久永隆一
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 宮城、福島両県で16日深夜に震度6強を観測した地震の影響で、首都圏を中心に最大200万件を超える大規模停電が発生した。短時間であっても停電が命にかかわるケースがある。自宅で人工呼吸器を使いながら暮らす大人や子どもたちにとって、災害時にはどんな備えが必要なのだろうか。

備えが安心感に

 16日深夜。仙台市に住む詩人の岩崎航さん(46)の家は大きく揺れ、11年前の東日本大震災と重なった。ヘルパーや両親が岩崎さんのベッドの傍らの人工呼吸器が倒れないように押さえてくれた光景が一緒だった。

 岩崎さんは筋力が次第に衰えていく難病「筋ジストロフィー」を3歳で発症した。呼吸器が24時間必要だ。

 東日本大震災の時、自宅は停電した。呼吸器の内部バッテリーは8時間しか持たない。呼吸器の電源コードをコンセントにつなぐため、病院に避難して命を守った。

 この経験から外付けのバッテリーを二つ用意した。コンセントから電源をとらなくても、24時間は呼吸器が動かせる備えだった。今回の地震は停電は一瞬で、すぐに復旧。電源を考えないといけない状況には至らず、「ホッとしました。備えがあり、安心感があります」。

医療的ケア児にも

 難病や障害があり、呼吸器を自宅で使う人にとって、停電は命の危機に直結する。

 「医療的ケア児」。全国に2万人いるとされる子どもたちにも、自宅で呼吸器を使う子どもが含まれる。

 医療的ケア児らを支える「コーディネーター」として活動する増子邦行さんの元にも地震直後、支援する家庭から安否連絡が次々届いたという。「30分から3時間停電したご家庭がありましたが、事なきを得ました。この機会に、次への備えを考えてほしいです」

 増子さんは運営する情報サイト(https://kodomoday.jimdofree.com/別ウインドウで開きます)で「防災マニュアル」を公開し、機器専用の外部バッテリーや発電機といった非常用電源の確保、医薬品の備蓄などが大事だと指摘している。車から電源を取る場合、人工呼吸器と直接つなぐと故障する恐れがあり注意が必要だ。停電の長期化や火災で自宅避難が続けられない事態も想定し、事前に避難所を下見しておくことも勧めている。

家族だけでは限界……行政や主治医に相談を

 増子さんは「家族だけでは限界もあります。主治医や訪問看護師、コーディネーターに災害対応を相談しましょう。避難時に支援が受けられるように、行政の要支援者名簿に登録されているか、お住まいの自治体に確認してみてください」と話す。

 公益財団法人「東京都医学総合研究所」の難病ケア看護ユニットも、難病患者を含む呼吸器を使う人向けに災害への備えをまとめた冊子をホームページ(https://nambyocare.jp/product/product2/別ウインドウで開きます)で公開している。

 冊子では7日間の在宅避難を想定して必要なものをイラスト入りで例示する。いつでも使えるようにするための外部バッテリーの充電など、チェックリストを設けている。

 同ユニットのリーダーを務める中山優季さんは、「日常のケアや外出に必要なものをそろえるだけではなく、日ごろから使っておくことが大切です。それが災害時の備えになります」と話す。

避難訓練「12%」

 中山さんらは2019年10月、全国19都道府県にある訪問看護事業所を対象に、呼吸器を使う1768人の災害への備えを調査した。その結果は、外部バッテリーを備えているのは69%、たんを吸い出すバッテリー付き吸引器は60%、非常用電源は42%。十分でないことが明らかになった。

 呼吸器を使う人たちは自力で動くのが難しい。そこで前もって避難時の支援計画を個別につくる自治体もある。中山さんらの2019年時点の調査では計画が策定済みだったのは41%。避難訓練までしていたのは12%だけだった。

 21年5月に施行された改正災害対策基本法は、個別の支援計画づくりを市区町村の努力義務とした。

 看護師でもある中山さんは「努力義務化されたことで、計画策定が進みやすい状況になった。今回の地震を機に備えを再点検してほしい。日ごろ関わっている医療チームにも相談してみてください」と呼びかける。(久永隆一)

備えの費用助成も

 災害の備えにかかる費用を助成する自治体もある。

 2018年9月に最大震度7を記録した「北海道胆振東部地震」で大規模停電を経験した札幌市は19年10月から、自宅で人工呼吸器などを使う個人向けに、非常用電源などの購入費を助成する事業を始めた。

 東京都は難病患者への無料貸し出しを前提に、発電機や蓄電池などを購入した医療機関に費用(限度額あり)を全額補助している。今年度から蓄電池も補助対象に加えたが、今年度分の申し込みは終了し、来年度から受け付けを再開する。