「京都国際の無念を」 熱い近江の冷静な捕手、故障明けエース支える

高橋健人
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(20日、第94回選抜高等学校野球大会1回戦、近江6-2長崎日大)

 1点を追う九回2死、一、二塁、近江の大橋大翔(だいと)は右打席に立った。

 「山田(陽翔(はると))が踏ん張って投げていた。どうにか追いつこうという思いだった」

 3球で追い込まれた。4球目の緩い変化球をなんとかファウルにした。5球目も105キロの同じ変化球。くらいつき、右前へ落とす同点打とした。

 バットでチームの窮地を救い、マスクをかぶってエースを落ち着かせた。

 十回の守備。1死から味方の失策、敬遠で一、二塁となった後、山田が死球を与えて塁が埋まった。

 「しっかり踏ん張るぞ」

 マウンドへ駆け寄り、声をかけた。

 ここぞの場面で力んでしまう山田の性格はよく知っている。直後の打者を三飛に打ちとった球はまだ高めに浮いていた。

 「低めに、丁寧に」

 ジェスチャーで伝えた。

 続く相手の8番打者を追い込むと、外角低めへの142キロでバットに空を切らせた。

 山田は故障明けだった。昨夏の全国選手権で4強入りの原動力となったが、右ひじを痛め、昨秋の公式戦では一度も投げられず、今月12日の練習試合で復帰したばかりだった。

 昨夏も控え捕手としてメンバー入りし、投手陣を支えた大橋は「どうにかして山田の負担を減らしたい」と配球を工夫した。

 変化球を織り交ぜてストライクを先行させた。ここぞ、というピンチではギアを上げさせ、球威を生かした。

 チーム内に複数の新型コロナウイルス陽性者が出た京都国際に代わって、繰り上げ出場が決まったのは17日。

 「いたたまれない思いがある」と選手たちは口にした。

 多賀章仁監督は試合前、こう発破をかけたそうだ。

 「京都国際さんの無念の思いを背負って、当たり前に野球ができるわけではないんだと感謝して、きょうはやろう」

 九回の攻撃、大橋の前を打つ西川朔太郎は四球を選んだ瞬間、ベンチに向かって拳を握った。

 ピンチを背負うと山田はときにうなり声を上げながら投げた。

 熱く戦うチームには、冷静な扇の要がいた。(高橋健人)

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