川遊びと焼き鳥もセット? 山あいの謎のうどん文化

木下広大
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 「うどん県」香川から2~3キロ離れた山中に、讃岐うどんとは味も食べ方も異なるうどんがある。

 徳島県阿波市の「御所」と呼ばれる地区は、中央構造線の横ずれによって隆起した讃岐山脈の一角で深い山が続く。長いトンネルを抜け、一本道に出ると、「たらいうどん」と書かれた看板が現れた。

 記者が訪れたのは、店を構えて40年以上の老舗うどん店「樽平(たるへい)」。ほぼ川の真上に店があり、京都・鴨川沿いの「川床」のようだ。店からそのまま川に下りられる階段もある。周辺のうどん店も多くがこの形態という。

 店に入ると、聞かれた。「ゆでるのに20分くらいかかるけど、大丈夫ですか?」。太い麺をじっくりゆでるらしい。さらに、客はうどんのお供に、テーブル備え付けの焼き肉用の網で鶏肉を焼いて食べる。

 「うどんをゆでるのに時間がかかるでしょ。大人はうどんが来るまでに焼き鳥を食べてビール飲んで。子どもは下で川遊び」と店長の中筋雅明さん(68)。客席の窓から子どもが見えるので、大人も安心して食べられるという。

 御所には5軒ほどのたらいうどん店があるが、同様に焼き肉用の網を備えている店が多いようだ。来店すれば1時間以上、半日滞在する人もいるという。注文し、その場で丼を受け取ってサッと食べて帰る讃岐うどんとは全く違う。

 うどんに使う出汁(だし)も特徴的だ。樽平はカツオや昆布に加え、近くを流れる川にもすむ川魚でハゼの仲間「じんぞく」(カワヨシノボリ)を使っている。味がまろやかになるという。たらいうどんの伝統的な出汁だ。

 一風変わったうどん文化。なぜこの山中で生まれたのか。

 もともとは、木こりが仕事終わりに河原でうどんをゆで、釜から直接食べていたのが原型。訪れた徳島県知事をもてなす際、たらいのような木製のお盆に入れて振る舞ったのがきっかけだという。

 昭和半ばごろには、たらいうどんの形が定着し、川遊びに来た人が河原で食べるのが一大レジャーになった。河原でじんぞくを捕まえるなど川遊びを楽しんだという。うどん店は河原の小屋で営業し、注文を受けて客にうどんを持って行く「海の家」ならぬ「川の家」スタイルだった。

 うどんが栄えたもう一つの背景には、山を抜けた先の扇状地で小麦がよくとれたことが挙げられる。讃岐山脈から続く急勾配の扇状地は水はけがよく、米よりも小麦をつくるのに向いていたらしい。山中の渓流を利用した水車で小麦を粉にひけたことも、うどん文化を育む絶好の条件だった。

 しかし、扇状地に用水が整備され、米が作れるようになると、小麦栽培は衰退。ただ近年は「もう一度地元の小麦でたらいうどんを」と、少しずつ小麦を育てる農家も出ている。

 毎年11月には、たらいうどん店で一斉に地元の小麦を使ったうどんを出す「御所のたらいうどんフェア」も開かれている。

 ちなみに、香川でうどん文化が発展したのも、讃岐山脈から続く急勾配の扇状地が多く、米より小麦を作りやすかったためだ。そう考えると、たらいうどんと讃岐うどんは、讃岐山脈をつくった中央構造線が生んだ、と言えるかもしれない。(木下広大)