ボロボロ「絵金派」びょうぶ、元の姿は…… 高知大が想定復元

冨田悦央
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 幕末~明治初期に土佐で活躍した絵師金蔵(きんぞう)(通称・絵金(えきん))を始祖とする「絵金派」が描いた芝居絵屛風(びょうぶ)のうち損傷の激しい1点が、高知大学の研究グループによって想定復元された。神社の夏祭りで屋外に飾られるため、時がたつと傷みが目立ち、廃棄されることも珍しくないという。想定復元によって、地域の文化財を次世代に継承する手法の選択肢になると期待されている。

 想定復元したのは、高知県香南市香我美町の神社・峯八王子宮(みねはちおうじぐう)の夏祭りを彩っていた芝居絵屛風(縦150・5センチ、横178センチ)。歌舞伎「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」の名場面「御殿」を題材にした作品だ。画面の7割ほどが剝落(はくらく)しているが、残った部分の筆の運びや色彩などから絵金派(作者不詳)の作品で明治・大正期に描かれたものだと推定された。

 県内に現存する芝居絵屏風の調査を2011年から進めてきた高知大講師で日本画家の野角(のずみ)孝一さんらが、この作品を確認したのは15年末。翌16年2月に峯八王子宮の氏子から「処分したい」と相談があり、高知大が譲り受けて使用された絵の具や図画用紙の成分などを詳しく分析することになった。

 これまで絵金や絵金派の作品の絵の具の調査は、蛍光X線による非破壊分析しかできなかったが、高知大海洋コア総合研究センター(南国市)で初めて、電子顕微鏡による破壊分析が行われた。電子顕微鏡は作品の一部を切り出した試料を作らねばならないが、今回は絵の具がついた剝落紙片も残っていたため可能になった。

 その結果、一部の緑色が想定外の水干(すいひ)絵の具で描かれていたことが判明。また、県立紙産業技術センター(いの町)の分析で、使用された図画用紙が竹を原料とする竹紙(ちくし)と確認できた。これら科学的研究の成果をふまえて復元製紙された竹紙に、野角さんが筆をとって芝居絵屛風を制作する作業が始まった。

 幸い、約30年前に撮影された写真が残っていた。当時は失われていたのは画面全体の3割程度で、これを見ながら下絵を描き始めた。ところが、肝心の中央付近が破け落ちて写っていない。絵金研究者の横田恵さんらの助言や、氏子への聞き取り調査で「血を流す子どもが描かれていた」との証言を得たため、現存する絵金や絵金派の同じ題材の作品に倣い、のど元を刺される子どもを描くことに決めたという。

 野角さんは、子どもを最初は髪を結んだりりしい姿で下書きしていたが、試行錯誤の結果、「おどろおどろ」と呼ばれる絵金派の芝居絵屏風に特有の迫力ある表現に改めていった。想定復元された作品の真ん中には、乱れ髪で口やのどから真っ赤な血が飛び散り、たれ落ちる子どもの最期が描かれている。野角さんは「練習を繰り返し、描き上げるのに3年かかった」と語る。

 想定復元された芝居絵屏風は、創造広場「アクトランド」(香南市野市町)の「絵金派アートギャラリー」で5月29日まで、絵金直筆の絵馬提灯(ちょうちん)とともに展示されている。年中無休、午前10時~午後6時。入館料大人1千円など。

 絵金や絵金派に詳しい県立美術館学芸員の中谷有里さんは「歴史研究と科学分析に基づく客観的な根拠を背景にした想定復元は、地域に根差す文化の保存、継承への新しいアプローチといえる。鑑賞できないほど欠損が大きい作品にも史料的価値があることを教えてくれる取り組みだ」と話している。(冨田悦央)