宮大工になった彼の成長 東海大バスケ部の指導論(リクさんの目)
リクさんの目
東海大男子バスケットボール部は、卒業後に競技を続ける人間にとっても、そうでない人間にとっても、社会に出る土台作りの場です。
いちばん大事な土台は、ものの考え方です。私は学生に自分の考えを強制しません。彼らが主体的に考え、行動することを求めています。でも、一からすべてを任せるわけではない。
大学バスケ界の強豪、東海大の陸川章監督は教え子たちから「リクさん」と慕われています。自分の経験や考えを押しつけず、どのように学生の主体性を引き出しているのか。過度な勝利至上主義とは対極にあるチーム作りのヒントを語ってくれました。
思考の出発点として「シーガルズルール」と「ゴールデンスタンダード」の二つをチームで定めています。
私が2001年に監督になった時に作ったシーガルズルールは三つあります。
▼明確な目標に向かって志を立て、己にも周りにも厳しさと温かさを持ち、何事にも明るく前向きに挑戦する。
▼フルフルワクワクキラキラしているチームになる。その瞬間に全力を出し切り、目標に対して、ぶれることなくやり続ける。
▼皆は学生。高い学費やアパート代を親が出してくれるから学生生活が送れる。感謝を忘れず、授業に出て卒業、就職する。各学年30単位以上は取得する。
彼らを縛るのではなく、当たり前のことを当たり前に考えるためのものです。30単位を取れなかったら稲盛和夫さんの著書「生き方」を読み、リポートを提出してもらっています。
ゴールデンスタンダードは、米デューク大バスケ部のカリスマ指導者だった「コーチK」(マイク・シャシェフスキー氏)の本に感銘を受けたのがきっかけでした。
「人生の目的は幸せになること」というダライ・ラマの言葉を引き、米プロフットボールNFLドルフィンズの監督だったドン・シュラ(故人)が説いた「勝っても思い上がるな。負けても落ち込むな」という「24時間ルール」(試合の結果にとらわれるのは終了後24時間まで)などを盛り込みました。選手や人としての心構えを示したものです。
私は、中学の頃から本が大好きでした。NKKに入り社会人になった時に「宮本武蔵」を読み、歴史小説にはまりました。ビジネス書を読みあさり、チームにいた米国人に「聖書を読め」と言われて宗教がらみの書物も読みまくった。
本屋は私の遊園地です。心に残った言葉をノートに書き留め、それが大学の授業の資料になり、指導の糧になっています。
毎年、入学式で新入生や保護者に先ほどのルールを話します。人間は忘れてしまう生き物だから、折に触れて選手たちに話すよう心がけています。
こうしたルールは言葉だけが浮ついてしまいがちです。私がガミガミと口うるさく言っても学生たちの血肉にはならない。
だから答えを与えず、考えるきっかけをつくる指導を常に心がけています。
何か問題が起きると、「来た来た、チャンスだ」と私はうれしくなる。成長のきっかけになるからです。
昨年末にあった全日本大学選…

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