ワイン造りに取り組む井下奈未香さん

伊藤稔
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 ワインの世界に魅了され、ソムリエを経て、徳島県三好市でワイン造りにブドウ栽培から取り組む。昨年、県内で初めてというワイン専用の醸造所をオープンさせた井下奈未香さん(39)に、ワインの魅力などについて聞いた。

 ――いつからワイン造りに取り組み始めたのですか

 2014年、結婚を機に、夫の出身地の三好市に移り住みました。そのころワインの造り手になりたくてイタリアに行く準備をしていました。「徳島でブドウ畑をさせてくれるのなら行く」という約束でこちらへ来ました。

 最初は畑が見つからず、ようやく夫の親戚から借りることができ、16年からブドウ栽培を始めました。毎年広げ、いまは市内7カ所に自家栽培の畑があり、委託栽培の畑3カ所を含め計150アールほどに増えました。除草剤は使いたくないので草刈りも大変。5人の子どもを育てているので、スタッフの方に支えられています。

 ――育てるブドウの種類は

 ヤマソービニヨンやピノノワール、巨峰、マスカットべーリーAなどで、この地域にはどんな品種が合うのかと、いろいろ植えています。植栽して5年、ようやく収穫できはじめた品種もあります。昨年8月にオープンした醸造所では、山形や長野、香川、徳島県阿波市や美馬市などからブドウを仕入れ、醸造しています。今後は自家栽培のブドウでもっとワインを造っていきたい。

 ――ワインにのめり込むきっかけはなんだったのですか

 奈良県に住んでいたとき、初めて行ったワインバーで飲んだワインがすごくおいしかった。衝撃的でした。いまでも覚えています。明日から働かせて下さいとお願いしたら、あっさり認められて。でもワインというと、赤、白、泡しか知らないほど知識は全くなく、そこからめちゃくちゃ勉強しました。

 店が終わってから先輩の店に行き、いろんなワインを飲ませてもらったり、日中もワインショップに行ってラベルを見たり。ワインバーでは5年間働いて、ソムリエの資格も取りました。また、大阪府羽曳野市のワイナリーで畑仕事の見習いや醸造も学ばせてもらいました。

 ――なぜワイン造りから携わろうと

 ソムリエとしてサービスして、ワインのことを愛しているのに、ワインと密ではないとも感じていました。そんなとき、理想の醸造家に出会いました。醸造の過程をのろけているように、楽しそうに話すのです。その生き方がうらやましすぎて、ものすごい嫉妬心が生まれました。こういう人間になって死にたいと思った。ワインに深く人生をかけたかった。

 ――理想のワインとは

 目指しているのは日本の食に合う、食感のあるワイン。うちのワインは添加物なしで、フィルターにもかけていないのでにごりがある。一切足さず、引かず、ブドウそのもののうまみを感じるワインを造り続けていきたい。そして、体調が悪いときにも飲めるワインも造りたい。昔、おばあちゃんがつくってくれた卵酒のような体に優しいワイン。手作りの媚薬(びやく)というか。だからロゴが魔女なんです。

 ――改めてワインの魅力は

 まったく同じワインを違う日に開けて飲んでも、違った味わいになる。グラスの形状や空気の触れ方、保存の仕方、一緒に飲む相手、自分の体調など全部が作用してそのときの味が変わってくる。ワインって香りや視覚、味覚、のどや鼻腔(びくう)からあがるアロマなど五感にすごく訴える飲み物。そのときしか味わえない一期一会というところが魅力です。(伊藤稔)

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 いのした・なみか 奈良市出身。2021年8月、徳島県三好市池田町マチに「Natan葡萄酒醸造所」(0883・87・8688)を設立。今年3月、同所に販売店をオープン。営業時間は午前9時~午後4時半、土日祝日休み。