年齢制限17歳はふさわしい 日本選手が証明してくれたこと

ノンフィクションライター・田村明子
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 長い間、何度も議論されてきていたフィギュアスケートの年齢制限に、いよいよ改正が行われそうだ。

 ジュニアから上がったばかりの少女体形の選手が、軽さを武器に難しいジャンプをきめてメダルを取り、20歳になる前に競技引退。こんな前例が繰り返され、これまで何度も問題視されてきていた。

 2018年に15歳で平昌オリンピック(五輪)を優勝し、17歳で競技引退したアリーナ・ザギトワはその典型だが、実はこれは別にロシアに限ったことではない。

 1994年リレハンメル五輪で16歳で優勝したウクライナのオクサナ・バイウル、98年長野五輪で15歳で優勝したアメリカのタラ・リピンスキーは、いずれも五輪が最後の試合になった。

 2002年に16歳でソルトレークシティー五輪の金メダリストとなったアメリカのサラ・ヒューズ、14年にソチで優勝したロシアの17歳アデリナ・ソトニコワらも、結局オリンピック以降の競技活動は成功しないまま引退していった。

 北京で新五輪チャンピオンとなったロシアのアンナ・シェルバコワは、17歳で早くもコーチに転身すると宣言している。女子チャンピオンの選手寿命は、平均すると、男子、アイスダンス、ペアといった他の3種目に比べて異常に短いと言ってよい。

 現在のルールでは、オリンピックや世界選手権に出場するためには前年の7月1日の前日までに15歳になっていることが条件だ。

 だがまだ体が成長中の少女の身体を守り、息の長い選手活動を推進するためにも、シニアに上がる年齢制限を上げるべきだ、という声は様々な関係者からも常に聞かれていた。

 それでも日本スケート連盟も含む多くの連盟は、長い間それに賛同してこなかった。2018年国際スケート連盟(ISU)総会では、オランダスケート連盟から「17歳以上に改正」の提案が出されたものの、最終ラウンドに上げる前に早々に否決されている。

 だが今年6月のISU総会に向けてノルウェースケート協会が再び17歳以上にする改正案を出し、アメリカのベテランスポーツ記者、フィル・ハーシュ氏の関係者取材によると今回はすでにISU理事長であるヤン・ダイケマ氏を含む13人の理事会メンバーが賛同しているのだという。

 そのきっかけはもちろん、北京五輪で起きたロシアのカミラ・ワリエワドーピング陽性事件だ。12月にロシアで採取された検体に陽性反応が出たにもかかわらず、CAS(スポーツ仲裁裁判所)はワリエワが最後までオリンピックに参戦することを許可。その理由の根拠となったのが、WADA(世界反ドーピング機構)の未成年保護ルールだった。要保護者である16歳以下は、たとえ陽性であっても処分は情状酌量されるという内容が含まれる。北京では女子の優勝候補だった15歳のワリエワは、このWADAのルールの死角をついてきた形になり、国際オリンピック委員会(IOC)もISUも、面目を失った。未成年者はドーピング違反をしても処罰されないという前例を作れば、今後第二、第三のワリエワが出てくる恐れもある。

 6月にタイのプーケットで予定されているISU総会(ロシアは不参加になる見込み)では、ISUメンバー国の3分の2の票が得られれば、可決される。これは女子だけでなく、4種目すべてで施行されることになる。

 さてシニアに上がる最低年齢が17歳になれば、どのようなことが起きるだろうか。どのくらいの影響になるかは、個人によって明暗がはっきり分かれることになる。

 筆者は、恐らく日本の選手にはほとんど影響がないだろうと考える。その理由は、日本は過去に多くのトップ選手、チャンピオンを出してきたが、そのいずれもが息の長い活動を続けてきたからだ。

 ジュニア時代から注目されていた樋口新葉明大)は15歳でシニア国際大会デビューをしたが、その後けがと戦いながらも、年を重ねるごとに様々なプログラムに挑戦し、技術的、芸術的に進化を遂げてきた。そして21歳で挑戦した今季の北京五輪では、トリプルアクセル(3回転半)ジャンプを成功させた史上5人目の女子になった。

 坂本花織シスメックス)は17歳でシニア国際大会デビューし、そのシーズンに平昌五輪の代表に選ばれ6位と健闘。そして4年後の北京五輪では、ジャンプ、スピン、スケーティング、そして表現力の全てにおいてシニアにふさわしい質の高さを見せ、みごとに銅メダルを獲得した。

 このように日本の女子はジュニアからシニアへと、健全に段階を踏んで成長している。紀平梨花トヨタ自動車)のように負傷で一時休養する選手も、そう簡単に競技引退はせず、スケーターとして成熟するまで活動を続けていく。

 それは、日本のコーチたちのトレーニング方法が、ジャンプだけではなく、スケーティングの基礎をしっかりとやらせることを重視して、一人一人の才能を大事にしてきたために違いない。

 子供の頃からその抜き出たジャンプ技術で注目されてきた浅田真央さんも、2005年に15歳でシニアデビューしてから12年にわたって素晴らしいキャリアを築き上げた。天才少女と呼ばれても、決して打ち上げ花火のように一瞬だけ輝いて終わる必要はないことを、身をもって証明してくれた。

 こうした日本の女子の前例を見る限り、17歳という年齢はシニアデビューにふさわしい、良いタイミングではないだろうか。

 この提案に間違いなく反対するであろうと予想されるのは、やはりロシアフィギュアスケート連盟だ。現段階では、6月のISU総会に参加できるのかどうかも定かではないが、ISUメンバーである限り投票権は維持されるだろうと予想する。

 現在の女子の4回転ジャンパーは、そのほとんどがロシアのジュニアの選手たちだ。エテリ・トゥトベリゼ・コーチのグループの秘蔵っ子、14歳のソフィア・アカテワは3アクセルと2種類の4回転を持ち、現在の世界ジュニアの歴代最高スコア保持者である。

 北京で優勝したアンナ・シェルバコワ、銀メダルを手にしたアレクサンドラ・トゥルソワは、いずれも17歳でオリンピックで4回転ジャンプをきめた。だがアカテワをはじめとするジュニアの4回転ジャンパーのうち何人が、17歳までけがを避けて4回転をキープしていられるのかわからない。

 現在すでに、ジャンプだけで判断すればジュニアの女子の方が難度の高い内容をこなしている。だがルールが改正されたなら、ジャンプ重視の短期勝負型ではなく、もっと長期的視点を持って総合力のある選手を育てていくトレーニング法が求められることになるだろう。

 ロシアが国際大会の舞台に戻って来るのがいつになるのか、未定だが、ロシア女子の中でも、エリザベータ・トゥクタミシェワのような息の長い選手と、そのように指導できるコーチの価値が再評価されていくに違いない。

たむら・あきこ 盛岡市生まれ、ニューヨーク在住。ニューヨークの美大を卒業後、出版社などを経て1993年からフィギュアスケートを取材。著書「挑戦者たち――男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて」が2018年度ミズノスポーツライター優秀賞受賞。「ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語」など著書、訳書多数。(ノンフィクションライター・田村明子)

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 当初、大会参加の年齢制限について、五輪や世界選手権と比べ「GPシリーズは、それより1年早く参加できる」との記述がありましたが、誤りであるため削除しました。現在はGPシリーズも五輪などと同じになっています。訂正して、おわびします。

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