第1回トラックに命奪われた結婚間近の27歳 交通捜査員・大橋一仁の原点

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柏樹利弘
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 あの日から15年、一度も開けていない袋がある。

 昨年8月、長野県に住む父(77)は、仏間に置かれたその黒い巾着袋を手に取った。

 赤いヘルメットが出てきた。あごの部分がひしゃげている。塗装がパリパリとはがれ落ちた。

 父は静かに手を合わせた。

 母(71)は涙ぐんだ。「怖くて一度も見られなかった。あの子の顔がここにあったんだと想像してしまう気がして」

2021年に交通事故で亡くなった人は全国で2636人。悲惨な事故は後を絶ちません。交通事故捜査のベテラン警察官の足跡をたどって、事故捜査の現場と、事故が招く悲劇の実相に6回の連載で迫ります。

コンマ数秒ずれていたら

 2006年4月29日。

 午前1時半ごろ、警察署の事故捜査をサポートする愛知県警交通指導課「支援班」に所属していた大橋一仁は、捜査車両のセダンのハンドルを握り、名古屋市内を走っていた。

 当時44歳の巡査部長だった大橋は、知多半島で起きた事故の捜査を終えて、本部に戻る途中だった。

 「仮眠が取れるかな」と考えていると、助手席に座る班長の携帯電話が鳴った。

 「国道23号で事故発生」

 すぐ現場に向かった。

 名古屋市緑区自動車専用道路で、トラックが横転。たまたまオートバイで通りかかった男性が下敷きになった。

 大橋らは、ガードレールを擦った跡や散乱した部品の地点を記録した。路面に残るトラックのタイヤ痕は、太くなったり細くなったりしていた。

 トラックは、乗用車に追突されたはずみで片側に車重が偏り、ハンドルを逆に切ったことで、バランスを失って横転していた。

 乗用車を運転していたのは…

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