第4回幻の臙脂色を追って 記憶と写真頼りに中国、ブータンへ解き明かす旅
よみがえる琉球の美④
「花色」ともいわれる臙脂(えんじ)は、赤系の華やかな色だ。日本絵画や沖縄の伝統衣裳(いしょう)の紅型(びんがた)に使われてきた。しかし、現在はほとんど姿を消してしまい別の天然色素や合成染料が代用している。この幻の臙脂色の復元に取り組んだ研究者の旅を追った。
よみがえる琉球の美
沖縄県は、沖縄戦や明治以降の近代化によって失われた琉球王国時代の美術工芸品の製作技法(手わざ)の再現に取り組みました。できる限り当時の原料・素材と技法の再現を試みて完成した模造復元品を紹介します。
2016年1月、沖縄県立芸術大学の渡名喜はるみ教授は、ドイツのベルリン国立民族学博物館(現・新博物館)を訪れた。博物館が所蔵する紅型「木綿花色地霞枝垂桜(しだれさくら)文様紅型袷(あわせ)衣裳」の地染めの色料を確認するのが目的だった。
袷の表も裏も地色は花色と呼ばれる臙脂で染められ、表には枝垂れ桜が、裏にはバラの模様が描かれていた。返しのある襟(えり)をつけた豪華な仕立ては、制作年代や由来の証明はないが、王国時代の品であることを十分にうかがわせるものだった。
「大人色のピンク」。渡名喜さんには、臙脂の鮮やかさが、そう連想させた。科学分析は許可がおりないため目視調査のみだったが、持参した色見本と見比べて確信した。「間違いなく綿臙脂(わたえんじ)の色」
代用品で染める現代の紅型
しかし、紅型作家でもある渡名喜さんは、もはや沖縄の紅型工房で綿臙脂が使われていないことを知っていた。
中南米産の昆虫コチニールカイガラムシ(コチニール)から抽出した色素がおもに代用され、19世紀末にはすでに合成染料が使用されていたことに気づいていた。
この紅型の模造復元品をつくるには綿臙脂が必要だ。どうすれば現代によみがえらせることができるか。
渡名喜さんは、一人の画家の名前を思いついた。茨城県つくば市で東洋絵画を学び、臙脂の研究をしている沓名(くつな)弘美さん。彼女とは臙脂が取り持つ縁で、交流があった。
東京芸術大学大学院で文化財保存学を専攻した沓名さんは、国宝「紅白芙蓉(ふよう)図」の現状模写を経験したことが臙脂の研究を始めるきっかけになった。
芙蓉の花が綿臙脂から抽出した臙脂で彩色されていることは知られていた。しかし、綿臙脂は入手困難なうえ製造法も不明なため、コチニールで代用せざるをえないことに引っかかりを感じていた。
「古美術や文化遺産を復元する際、技術の継承と原作に近づく真正性のためには、できるだけ原作に近い材料と技法を用いる必要がある」と沓名さん。中国の長い歴史の中で臙脂はどのような色料として存在していたのか。解き明かす旅が始まった。
文献などで調べると、綿臙脂…