教会の権力構造と聖母マリア信仰 作者ならではの視点が光る舞台
徳永京子・演劇ジャーナリスト
舞台評 シス・カンパニー「奇蹟」
作品ごとに異なる手付きで観客を煙(けむ)に巻く劇作家、北村想の新作。主人公の法水連太郎(のりみずれんたろう)(井上芳雄)と、友人の楯鉾寸心(たてほこすんしん)(鈴木浩介)が臆面もなく「シャーロック」「ワトスン」と呼び合う探偵ものだが、犯罪が積み重なる緊迫感も、謎が解き明かされるカタルシスもない。あるのは、答えに近付きそうになると差し込まれる、劇中の言葉で言えばペダントリー(専門家ぶってひけらかす知識)がつくり出す、寄り道の時間だ。
仕事の依頼で大分の小さな町にやってきた法水は、何者かに襲われて頭部を打ち記憶喪失状態に。追いかけてきた楯鉾と共に、元実業家・竿頭寛斎(かんとうかんさい)(大谷亮介)の家で孫娘マリモ(井上小百合)の世話になるが、依頼主らしい寛斎は行方不明。事件の全容がわからないまま、聖母マリアが出現するという「ドルドーの風穴」を目指し、近所の「迷いの森」へ出かけるが……。
物語の核には、1973年…