ワイナリーの夢 常陸太田で挑戦 本業は酒問屋

久保田一道
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 ブドウの生産が盛んな茨城県常陸太田市で、老舗酒卸問屋の4代目がワイン作りに挑んでいる。休耕地でブドウの栽培を始め、収量を増やしてきた。5月には畑のわきにワイン醸造所(ワイナリー)が完成する予定で、観光拠点にする夢を描く。

 ワイナリーの建設が進むのは、等間隔にブドウの木が植えられた同市瑞龍町の畑に隣り合う土地だ。

 「秋にはここで初めてワインを仕込めます」。大正時代から続く市内の酒卸問屋「合名会社 山口」の山口景司専務(49)は目を細める。創業者から数えて4代目。本業のかたわら、ここでブドウ作りに取り組んできた。

 山口さんは首都圏の大学を卒業後、大手ビールメーカーに4年あまり勤務。1990年代半ばに退社して、実家の問屋の仕事をし始めた。地域の人とつきあいを重ねると、自分より下の世代で、都会に出たまま戻らない人が多いことを知った。個人商店は減り、代わりに大手資本が展開する店が増えていた。

 「地域の中でお金が回るようにできないか」。そう考え、農家と飲食店を結びつけるイベントや、地元米を使った酒造りを企画した。生産者と接点を持つと、自らも酒の「商流の真ん中」に身を置くだけでなく、生産者にもなりたいと思うようになった。

 目をつけたのが、年々目立つようになってきた耕作放棄地だ。「ブドウの街」の特性と、家業で培ってきたネットワークを生かせると考え、2016年に約20アールの土地を借りてワイン用のブドウを作り始めた。

 本を読みあさって知識を得ようとしたが、最初は「殺虫剤」と「殺菌剤」の使い方の違いもわからず、四苦八苦した。そんなときに頼りになったのが、ブドウ作りを続けてきた「レジェンド」たちだった。

 レジェンドとは、ベテラン農家のこと。地元産のブドウの大半は食用で、加工用とは競合しないこともあり、農薬の使い方から病気への対応の仕方まで、教えてもらうことができた。

 春から秋にかけては、午前4時に起きて畑へ。2時間弱作業をして、問屋の仕事に移る。ブドウの糖度が高まると病気が発生しやすいため、収穫が迫った秋には「毎日ピリピリする」日々を過ごす。試行錯誤を経て、畑は1ヘクタールを超える規模にまで広がった。

 ワインを作れる量のブドウが収穫できるようになった昨年には、醸造免許を申請した。県内のワイナリーに醸造を委託してきたが、国の補助金も活用して自前のワイナリーが完成間近だ。

 山口さんには、二つの理想像がある。一つは、地域の人と一緒にブドウの収穫を喜べるようにすること。数年前、市内の特別支援学校の生徒とブドウの苗木を植え、昨秋初めて収穫した。「20歳になったら、うちのワインを最初のお酒として飲んでもらえれば」

 もう一つは、消費者を常陸太田に呼び込む「ワインツーリズム」の実現だ。地元の食材を使った料理と一緒に味わってほしいと願う。「ワインには、地域の土壌や天候が凝縮されている。愛好家に『あのワインの産地に行きたい』と思ってもらえるブドウを作りたい」(久保田一道)