世界中が組み込まれた「情報大戦」 人間の過ちに抗う理性と言葉の力

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論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん

 いま、この原稿を書いている間も、ウクライナでは戦火が燃えさかり、犠牲者が出ている。グローバル化や共生社会が叫ばれる21世紀に、いったいぜんたい、なぜこんな戦闘が起こるのか。論壇では、ウラジーミル・プーチン大統領の北大西洋条約機構(NATO)拡大への警戒、西側民主主義思想への反発と「ロシア世界」思想への拘泥といった理由が挙げられていた。片っ端から読んでみたものの、得心するには至らなかった。

 軍事戦略研究を専門とする高橋杉雄は、〈1〉で今般の侵略は「『合理的行動』として十分理解することができる」と説明する。高橋は、プーチン大統領の目的は、「ウクライナの社会・経済・市民生活の破壊」であり、その手段として国土を占領・進撃しているのだと言う。高橋の議論で愕然(がくぜん)としたのは、この作戦では、ウクライナの民間人は攻撃の「巻き添え」ではなく、ターゲットそのものだと解釈する点だ。市街地への無差別攻撃も、電力供給を遮断するための原発占拠も「戦略構想全体の中で整合的な形で実行」されているのだという。

 確かに、高橋の説明は、「戦略の一貫性」という点で筋が通る。とは言え、この説明も、私にとって、無差別殺戮(さつりく)を理解する助けにはならなかった。学校や劇場の跡の瓦礫(がれき)の山や、国を脱出するために女性や子どもを乗せた自家用車の列――この悪夢のような現実を、私たちはどのように認識すればよいだろうか。これに抵抗する非暴力的手段として、何が残されているのか。

 英国のジャーナリスト、キャロル・キャドワラダーは、この戦闘を世界最初の「情報大戦」と位置付ける(〈2〉)。彼女は、SNS上で展開された2016年の英国EU(欧州連合)脱退決定をめぐる情報戦米大統領選挙でのロシアによる情報操作疑惑の調査報道で一躍有名になった記者だ。この戦争ではまさに「情報はパワー」であり、4千万人のウクライナ国民の情報戦参戦がロシアへの対抗勢力として決定的に重要だと言う。

今回の情報戦では、うそや偽情報を見極める「ファクトチェック」も戦況を左右する重要な作戦になる、といいます。なぜでしょうか。記事後半に続きます。

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