動物園から北アルプス ライチョウ復活作戦「最終章」へ

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 中央アルプスでは、半世紀前に絶滅したとされる国の特別天然記念物・ライチョウの「復活作戦」を、環境省が進めています。動物園で繁殖させた家族を今夏、野生復帰させることが、3月中旬の環境省の「ライチョウ保護増殖検討会」で決まりました。動物園生まれのライチョウを野生に戻すのは初の試みです。復活作戦の「最終章」となるチャレンジです。

 中央アルプスでは1969年を最後にライチョウの目撃例がなく、絶滅したと考えられてきました。ところが、2018年に1羽のメスを確認。乗鞍岳を含む北アルプス方面から飛来したと考えられました。これをきっかけに復活作戦がスタート。一昨年には乗鞍岳から3家族計19羽を移送しました。昨年、自然繁殖に成功したほか、長野市の「茶臼山動物園」と栃木県の「那須どうぶつ王国」に1家族ずつ運びました。

 現在、茶臼山動物園はオス2羽、メス3羽の計5羽のライチョウを飼育しています。いずれも、昨夏、中央アルプスで繁殖した個体と母鳥です。オスは、近親交配を避けるため、那須どうぶつ王国からやってきました。那須には、茶臼山からオス1羽を移送して交換しました。

 計画では、4月に二つのパドック(屋外運動場)で、各1つがいを同居させてその後、交尾、産卵させます。飼育室にはハイマツで野生と同じような巣をつくり、メスに抱卵させます。6月以降、ヒナが孵化(ふか)した後は、野生と同じように母鳥のみが子育てをします。野生復帰に備えて、餌はガンコウランやクロウスゴなどの高山植物も与えます。高山植物は白馬五竜高山植物園(白馬村)で栽培したものです。飼育室には、岩場や砂場、ハイマツなど中央アルプスの高山環境に模した配置をして、現地の環境に慣れさせます。

 ライチョウは、通常、6~7個の卵を産みます。野生では孵化(ふか)後1カ月の死亡率が高いのですが、動物園では天敵もおらず、雨風などの影響もありません。野生復帰個体の目標は、茶臼山で2家族、那須で3家族の計5家族、母鳥とオスの成鳥1羽を含めて約40羽です。8月上旬、二つの施設で繁殖させた5家族を一緒にヘリコプターで中央アルプスに移送。現地で約1週間、木枠と金網で作った保護ケージに収容して現地の環境に慣れさせた後、放鳥します。ヒナが親離れする10月上旬、家族たちが無事に生き残れば、復活作戦はほぼ成功といえます。

 復活作戦で、動物園の果たす役割は大きいのです。1960年代、富士山(静岡・山梨県境)と金峰山(長野・山梨県境)で新たなライチョウ生息地をつくろうと、北アルプス、南アルプスからそれぞれ10羽弱移送しましたが、10年程度でともに姿を消しました。復活作戦の指揮をとる信州大名誉教授の中村浩志さんは「個体群を復活させるには、少数を放鳥しても難しい。まとまった数で一気に増やさねばならない」と説明します。

 動物園で繁殖したライチョウを野生復帰させるのは初めての試みです。しかし、この挑戦が成功すれば、今後は地域絶滅の恐れがある山岳地帯で、ライチョウを復活させる技術が確立します。野生の個体を別の地域に移送する必要もありません。中村さんは「野生復帰は将来を見据えたチャレンジ。今年が一番重要な年になる」と話しています。