第28回ウクライナの激戦地から逃れた大学教員 ネクタイを着け続ける理由

有料会員記事ウクライナ情勢

リビウ=金成隆一
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 ロシア軍の侵攻により、ウクライナ各地から避難民が押し寄せている西部の街リビウ。退避してきた人々が暮らすシェルター施設で、ネクタイをしている男性を見かけた。着の身着のままで脱出してきた人が多い中では珍しかった。

 男性は、ロシア国境に近く、激しい攻撃を受けたウクライナ北東部スムイ出身の大学教員バリリ・パナシュクさん(62)。侵攻直後に友人宅の地下に逃れた。

 地下生活での2週間が過ぎた3月10日、「きょう『人道回廊』が設けられる」と友人から聞いた。

 脱出できるのはこれが最後かもしれない――。そう思って荷物を取りに自宅に戻ることを断念し、ペットボトルの水1本を手に、バス34台が出発する場所に急いだ。

 出発時刻の午後3時。避難を希望する人たちが殺到していた。女性と子どもが多い。パナシュクさんが列に並ぶと、係員から右手の甲に「582番」と書き込まれた。「私は60歳以上なので、バスに乗せてもらうことができたのだと思います」

 乗れなかった人々は殺気立っていた。言い争う声があちこちから聞こえ、子どもたちがおびえていた。誰もが脱出に必死だった。

 ロシアは人道回廊の開設で合意したはずなのに、攻撃をやめない。そんなニュースを聞いていたので心配だったが、バスの車列は砲撃などで妨害されることもなく、順調に進んだ。バスの後方には、やはり脱出を試みる市民を乗せた無数の乗用車が続いた。

 その後、パナシュクさんは鉄道で西に向かい、リビウに到着。そこから親族のいる南西部チェルニウツィに向かった。

避難先で歩き回ってまで買った2本のネクタイ

 チェルニウツィでは、好みの柄のネクタイを探しながら街を歩いた。大学教員として、いつも身につけていたものだが、慌てて退避したため手元になかった。

 街中を歩き回って、質屋で中古品のネクタイ2本をやっと買うことができた。

 なぜ、ネクタイを?

 記者が問うと、しばらく考え…

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