大坂なおみはうつむきがちにコート脇のいすに座っていた。
2日、テニスのマイアミ・オープン女子シングルス決勝で、仲良しの世界ランキング2位、イガ・シフィオンテク(ポーランド)に4―6、0―6で敗れた。
悔しさはこみ上げるものの、涙がこぼれているようには見えなかった。表彰式に向かうころには、柔らかな笑みが浮かんだ。
どんな心境だったのだろう。少し時間をさかのぼって、振り返ってみたい。
2日前の準決勝では、涙があった。東京オリンピック(五輪)金メダリストのベリンダ・ベンチッチ(スイス)に4―6、6―3、6―4で逆転勝ちした後、コート脇の大坂はタオルで顔を覆い、うれし涙に暮れた。
「決勝に進むのは昨年の全豪オープン以来だから……。心の底からありがとう」
3連敗中だった難敵を振り切った直後のインタビューで、声援への感謝を口にした。本人の言葉を借りるまでもなく、全豪での栄冠からの大坂は、繊細な自分の心と向き合い、苦しむ日々が誰の目にも分かった。
昨年5月、全仏オープンの記者会見を拒否して罰金を科され、棄権を決めた。そして、衝撃の告白が続いた。4大大会で初優勝した2018年全米オープン以降、「長い間、うつの症状に悩まされ」「メディアの前で話すときは大きな不安に襲われる」と明かした。
大坂の記者会見は国内外を問わず、人気がある。発言がウィットに富み、記者との掛け合いで笑いが起こることも多かったのに。
なぜ………