ぼろぼろの作業着・返せない借金… ベトナム人実習生は「失踪」した

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平川仁
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 「あの日はみんなで地元の祭りに行くはずでした。でも、彼は来なかったんです」

 九州地方で建設会社を営む女性は、2018年8月のある日曜日を振り返る。

 翌日、会社で働くベトナム人技能実習生たちのために用意していたアパートのうち、男性(25)の部屋が、もぬけの殻になっていた。

 「びっくりしましたよ。一生懸命働いていましたからね」

 その経営者は続けた。「いなくなった理由は知りません」

 3年後の2021年10月、記者と男性は日本で知り合った。11月上旬、伝えられたフェイスブック(FB)に連絡を取ると、ビデオ通話画面に男性は現れた。スマホで話しているといい、太い金色のネックレス、シャツからのぞく上腕のタトゥー、横と後ろを刈り上げた頭髪が見える。色白で細身だが、その目つきは鋭い。

 「元気ですか?」

 記者が尋ねると、「元気、元気」と日本語で答え、口角を少しつり上げるようにして、ニッと笑った。

 いま、ベトナムの首都ハノイに近い新興都市の実家にいるという。簡単な日本語は使える。だが、込み入った話はできず、おおかたの会話はベトナム語の通訳を介した。

 実習生として日本に来た理由を聞いた。スマホに向かって語り始めた生い立ちは、次のようなものだった。

低賃金や労働環境の悪さから、失踪するベトナム人技能実習生が大勢います。彼らは、自らを「ボドイ」(ベトナム語で兵士の意味)と呼び、独自のコミュニティーを作っています。そんなボドイの一人の素顔に迫ります。

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連載ボドイ 技能実習「兵士」の肖像

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