米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督(43)、主演の西島秀俊さん(51)、プロデューサーの山本晃久さん(41)が5日、東京の日本記者クラブで記者会見を開いた。作品が世界で共感を呼んだ理由、米映画界の祭典の舞台や映画人との交流で感じたこと、自身や日本映画の今後について語った。
――まずはひとことずつ
濱口 第94回アカデミー賞で国際長編映画賞をいただき、こういう場を設けていただきました。ほんとにありがたいことだと思います。
西島 たくさんの方の応援で素晴らしい体験をさせていただきました。向こうでも本当に美しい映画だったと、たくさんの方に言っていただきました。この魂の救済の映画が、国や言語の壁を超えて、たくさんの人の心に大きく響いたということを改めて向こうで実感しました。
山本 ささやかな現場から始まったこの作品が、数々の賞を得て、こうしてまた皆さんのもとに戻ってきて、よりたくさんの方に見ていただけることを願いつつここに来ました。
――この映画が、言葉を超えて世界で評価されている原因、勝因がどこにあるとお考えですか
濱口 これだけ多くの国に受け入れられたことを私自身驚いて受け止めています。その国の人じゃないから分からないというのが正直なところですけれど、ただおそらく言えることは、村上春樹さんの物語の普遍性ということだと思います。
村上春樹さんが小説でやられているように、なにか希望にたどりつく、登場人物がこれで大丈夫だと思えるように、物語を構築する際に心がけていました。喪失と、再生とまでは言えないけれど、どうやってそれを受け入れて生きていくか。この物語の普遍性は多分国境を超えて受け入れられるものだったし、俳優の方たちが説得力のある形でそれを画面に定着したことが、一番大きなことだと思います。どこの国に行っても、本当に役者さんたちが素晴らしいということは言っていただきました。役者さんたちの力が、国を超えて、感情と感情で観客と響きあう形で伝わったんじゃないだろうかと思います。
西島 なぜたくさんの色んな国の方に通じたのかということは、正直分かりません。ただこの登場人物が、愛する者を突然失って、喪失を抱えながらそれでも生きて行くという物語ですけれども、僕たちが思ってる以上に、世界でたくさんの人たちがどこか傷ついていたり喪失感を抱えて生きているのかな、と個人的には思っています。そこからどう、それでも生きて再生していくのかという、一つの希望の道筋というか、光みたいなものがこの映画には描かれていて、共感を呼んだのかなと思っています。
――仮にハリウッドから話があったときに、どういう映画だったら考えてもいいかな、と思いますか
濱口 分からないというのが正直なところです。どういう物語を撮りたいかというのは、具体的に物語を読んでみたりして、自分と響き合うところがあるなと思ったときに思うものなので。ただ(昨年のアカデミー賞作品賞『ノマドランド』監督の)クロエ・ジャオさん、実際にお会いして「正気でいなさい」と言っていただいて、すごく重い言葉だなと思いました。足を地にしっかりつけてやっていけるような題材と体制があれば、挑戦してみたいなと思います。
――アカデミー賞では喜びをストレートに表現されていたが、あの時の心境は
濱口 直前にいたるまで、オスカーというものが自分の人生と関係してくるとあまり思っていなかったので、どう振る舞ったらいいのかわからなかった。日本語でもうちょっとしゃべりたかったんですけれども、多分「サンキュー」と高らかに言ってしまったがために会場の音楽が流れてしまって、その先が言えなかったんですけれども。俳優の皆さんに感謝を述べられたことは良かったなと思いつつ、その場でスタッフ、村上春樹さんにも感謝したかった。まあ次チャンスがあるか分かりませんが、あれば教訓を生かしたい。
――監督にとってアカデミー賞が持つ意味は
濱口 全く別世界と思っていたので、どういう意味を持つかというのは、今目の前に広がっている光景を見て、こういうことなんだなと思っています。自分が今まで体験したことがないような世界に導いてくれるようなものではあるんだろうという気はしています。
――受賞後の会見で「通過点」とおっしゃっていたが、今後はどんなところを目指していくのか
濱口 通過点であったらいいなと思っているだけで、通過点なのかはこれからですけど、どこかを目指してやっているというよりは、映画作りをよく分からないままやっているのが正直なところ。どうやって演出したらいいのか、どう俳優さんと関係を結んだらいいのか、毎回手探りで、次はもっとうまくできるかもしれないということを毎回思います。
本当にちょっとずつちょっとずつ、前はこうだったけど、次はもっとうまくできるかもしれないなということを一個一個やっていく。歩んでいった先に何があるのか分からない。今回みたいに思いもよらなかった結果に結びつくのかもしれない。分からないですけど、ただ、ほんの少しだけ、前よりちょっといい映画を作れるようになりたいとは思っている。
――西島さんは濱口監督との作品作りを通して、考えが変わったことはありますか
西島 濱口さんの現場はとに…
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