ドライブ・マイ・カーのアカデミー賞は「日本映画」の勝利ではない

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小峰健二
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コラム 映画記者が見る快挙の裏の現実

 「ドライブ・マイ・カー」が第94回米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した。ただ、その栄冠は、産業としての「日本映画」の勝利を意味しない。日本の映画史に刻まれる快挙に水を差すようだが、実際そうなのだ。

 もちろん「ドライブ・マイ・カー」は日本でつくられた、メイド・イン・ジャパンの作品である。枕ことばにも「日本映画」とつく。日本の映画好きにとって喜ばしいニュースなのは間違いない。

 しかし、今作は決して、日本の「映画界」を代表しているわけではない。現在の日本映画界の主流から生み出されたものとも全く言えない。

 むしろ今回の受賞は、日本映画界、正確に言えば大手映画会社を中心とした現在の日本の映画産業が、世界的な評価からも、また国内外で驚きをもたらす次世代の才能からも乖離(かいり)した、内向きな価値観で動いていることを明らかにしたと言えまいか。

制作・配給に大手は関与せず

 まず、誰もが知る大手映画会社は「ドライブ・マイ・カー」の製作にも配給にも入っていない。過去、監督賞にノミネートされた黒澤明監督の「乱」(1985年)にも、旧外国語映画賞をとった滝田洋二郎監督の「おくりびと」(2008年)にも、少なからず大手映画会社が製作に関与していた。配給も大手が手がけた。

 しかし、「ドライブ・マイ・カー」はそうした大手が関与せず、中規模の映画製作・配給会社であるビターズ・エンドなどが中心になってつくられている。関係者によると、製作費は1億5千万円ほど。日本映画ではそこそこの額だが、海外の映画人からは驚かれるレベルだ。

 欧州などで高く評価され、国際映画祭での受賞歴もある監督が、ある作品に1億円近くの予算が付いたと海外の監督に誇ったところ、「冗談だろ」と笑われたという逸話がある。それはフランスなら、映画学校を卒業したばかりの新人がデビュー作をつくるレベルの予算だというのだ。

 つまり、商業デビュー作「寝…

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