「滋宝」執筆者の座談会

構成・筒井次郎
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 2020年4月から滋賀県琵琶湖文化館(大津市打出浜)=休館中=の収蔵品を紹介してきた企画「滋宝(しほう)」が、50回で終了した。執筆した学芸員らが、滋賀の文化財や27年度に開館予定の後継施設について語り合った。

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 ――田澤さんには「滋宝」で紹介する収蔵品を選んで頂きました。

 田澤 文化館には、地域で守れない、研究に生かしてほしいなどの理由で寄託された多彩な文化財があります。「滋宝」では絵画、彫刻、工芸、書跡、考古資料といった分野や寄託元の地域を偏りなく選びました。あまり知られていない文化財の未指定品や未展示の収蔵品も紹介しました。

 ――滋賀県の文化財はどんな特徴があるのですか。

 井上 国宝・重要文化財は800件を超し(今月1日現在828件)、その数は東京、京都、奈良に次ぎ、全国4位です。このうち7割は、文化館の収蔵品でもある美術工芸品(絵画・彫刻など)の分野にあたります。

 全県に、偏りが少なく分布していることも特徴です。都があった地域や大寺院に集中している京都・奈良とは対照的です。

 ――各専門分野からは。

 和澄 仏像は、集落の小さなお堂で守られる例が多いです。それだけなら全国にもありますが、滋賀の場合は、その仏像が平安時代に造られたり、重要文化財級だったりということがよくあります。元々は立派なお堂にあったものが、戦乱や災害で廃れる危機の中、小さなお堂でも残されたのでしょう。地域の信仰心で守られたことを雄弁に物語っています。

 古川 絵画は、圧倒的に多いのは信仰で守り伝えられた仏教絵画です。「滋宝」で紹介した国宝の六道絵(ろくどうえ)(大津・聖衆来迎寺(しょうじゅらいこうじ)蔵)は日本を代表する作品といえます。曾我蕭白(そがしょうはく)の叡山図(えいざんず)や海北友松(かいほうゆうしょう)の檜図屛風(ひのきずびょうぶ)など近世(主に江戸時代)の世俗画にも素晴らしいものがあります。

 多くの優れた近世絵画が伝わった理由のひとつは、江戸時代の近江商人らに審美眼が備わっていたからでしょう。県内各地に伝統ある旧家が残り、文化館に寄託される絵画もあります。

 田澤 仏教工芸にも様々な名品があります。「滋宝」の初回に選んだ国宝の華籠(けこ)(長浜・神照寺(じんしょうじ)蔵)のほか、華鬘(けまん)、磬(けい)、鰐口(わにぐち)など、様々な優品を紹介しました。信楽焼や筆など、現在も生産されている伝統工芸の文化財もあります。

 北村 考古資料は、寺院の古代瓦でみると、中央(飛鳥)につながるもの、朝鮮半島から移り住んだ渡来人に関わるものが多いことが特徴です。

 井上 書跡の代表的なものは大般若経です。滋賀は数百の村落に伝わり、多くは神社に奉納されています。神様の前でお経を読むことで村の安全を守り、豊作を祈りました。

 文化財の面白さは、それぞれに多彩な歴史や人間ドラマがあることです。「滋宝」でも掲載した江戸時代の地誌である淡海(おうみ)温故録(おんころく)は、現在の多賀町の欄に明智光秀の出生に関する記述が見つかり、新たな価値が加わりました。

 ――後継施設が大津市浜大津地区に開館予定です。

 北村 県内には城跡や寺社など様々な歴史的資産があります。県全体を博物館とみなし、それらを生かした価値の創造拠点という位置づけで取り組みたい。

 和澄 長浜の仏像の展覧会を東京ですると、都市にない風景や文化財に魅力を感じる人たちから大きな反響があります。滋賀の人は、素晴らしい文化の中で生きている。そんなことを実感できるような展示をしたい。

 古川 かつて文化館には職人気質の学芸員がいて、文化財の取り扱い方も細かく教わった。学芸員のよい伝統を次の世代に伝え、美術に関心を持つ人や文化財の担い手を増やすため、魅力を発信していきます。

 井上 県内偏りなく分布し、地域の人が大切に守っている。そんな滋賀の文化財の特徴を継承すべく、後継施設は、県全域の文化財のサポートセンターを目指しています。

 私自身が幼い頃、文化財少年でした。50年前に高松塚古墳奈良県)の「飛鳥美人」発見で考古学ブームがあり、通学路の途中の発掘現場では「文化財のプロ」と接する機会がありました。その時の憧れが、この世界に入るきっかけです。後継施設は、未来を担う子どもたちにとっても憧れの場所になれば、と願います。(構成・筒井次郎)

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いのうえ・まさる 大津市出身。立命館大文学部卒。栗東歴史民俗博物館を経て、現在は琵琶湖文化館副館長。専門は書跡・典籍。明智光秀の多賀出生説を紹介した。共著に「滋賀県謎解き散歩」(中経出版)、「1冊でわかる滋賀の仏像」(サンライズ出版)など。

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わずみ・こうすけ 埼玉県蕨市出身。奈良大大学院修了。鎌倉国宝館滋賀県立近代美術館(現・県立美術館)を経て、琵琶湖文化館主任学芸員。専門は彫刻史(仏像・神像など)。県立安土城考古博物館の企画展「伝教大師最澄と天台宗のあゆみ」を担当した。

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たざわ・あずさ 宇都宮市出身。東京芸術大大学院修了。宇都宮美術館奈良国立博物館を経て、琵琶湖文化館学芸員。専門は工芸史(仏教工芸)。企画「滋宝」のコーディネーター。

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ふるかわ・ふみたか 大阪府交野市出身。神戸大大学院(芸術史)修了。滋賀県立安土城考古博物館や琵琶湖文化館の学芸員を経て、文化館副主幹。専門は仏教絵画史・仏教工芸史。文化館では「フェノロサ・天心の見た近江」「桃山時代の近江」などの展覧会を担当した。

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きたむら・よしひろ 滋賀県長浜市出身。金沢大文学部卒。滋賀県立安土城考古博物館などを経て、琵琶湖文化館副参事。専門は考古学。古代瓦や北近江の戦国史を研究。