前GQ編集長・鈴木正文が見たアンダーカバー新作 「日はまた昇る」
ファーストルックは、スリーブレスの、デコルテの露出した、足首までの長さの、つややかな光沢を惜しげもなく見せるロング・ブラック・ドレスだった。フォーマルだけれども、そこには高橋盾(じゅん)らしい明らかな挑発があった。左のショルダーストラップの頂点から、ストラップの傾きとともに斜行して走り、モデル女性の胸の下あたりから垂直に落ちるゴールドにかがやく2本の図太いジップラインがそれだ。しかも、外側の1本は、長身痩軀(そうく)のかの女の左脚の付け根あたりで開け放たれ、細くて長い、筋肉質の、輝かしいベージュ色の左脚が、太ももからほぼまるごと露出していた。漆黒のドレスは、その下半分で官能的に割れてゆらめいていた。
3月9日の夜、2022年秋冬の、ウィメンズのパリ・コレクションのスケジュールにつなげて、東京の国立代々木競技場第二体育館でおこなわれた「アンダーカバー」のランウェイショーでは、45のルックを数えたコレクション全体が、「コールド・フレーム」(冷たい炎)というテーマのもとに展開された。「コールド・フレーム」とは、辞書的には、最高でも摂氏(せっし)400度を超えない「冷温炎」のことである。しかし、それはメタファーだ。「エレガントなパンクということでしょうか」と、デザイナーの高橋盾は、テーマをパラフレーズした。文化服装学院の学生時代の1990年に、友人と「アンダーカバー」のレーベルをつくったころから、高橋の「ベースにあるアティチュードには、ずうっと消えない炎がくすぶっている」のだという。その炎を、「コールド・フレーム」と呼んだのであった。それはすなわち、パンク的反抗の冷たいメタリックマインドであり、それを可視化したのが、ファーストルックのドレスを縦断した金のジッパーと、喉(のど)元と手首に巻かれた切っ先するどい真鍮(しんちゅう)製の、無数のゴールド針によるネックウェアとブレスレットであった。それらは、フォーマルでエレガントなブラック・ドレスに仕込まれた、座頭市の刀だ。
すでに2年を経過し、いまなお明けそうで明けないコロナ禍と、2月24日にはじまったロシアによるウクライナへの軍事侵攻が重なるなか、このショーを控えた高橋は、「気分が晴れないというか、こんな時期にじぶんがやりたいことをやっちゃっていいのか」とまで考えたという。
しかし、「群馬から出てきた…
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