新たな生活を始めた新入社員だけでなく、その新人を受け入れる上司や先輩にとっても、新年度は心身に負担がかかります。相手のことを思って指導しているつもりでも、新人からパワハラだと受け止められてしまうことも。仕事上のコミュニケーションで誤解を生まないために、上司や先輩はどんな心構えを持てばいいのでしょう。パワハラなどを研究する神奈川県立保健福祉大学大学院の津野香奈美准教授に聞きました。
津野香奈美
つの・かなみ。神奈川県立保健福祉大学大学院准教授(社会疫学)。主な研究分野は、職場のいじめやパワハラ、ストレス、リーダーシップなど。東京大学大学院を卒業後、和歌山県立医科大助教、ハーバード公衆衛生大学院客員研究員などを経て現職。パワハラに関する厚生労働省の検討会委員などを歴任し、企業へのパワハラ研修や事例の相談なども多数こなしている。
新人はうつ病になりやすい
――上司や先輩の側が、新入社員にパワハラと言われることを気にするあまり、接し方に困っているという事例をよく耳にします
パワハラについて考える前に、「なぜ新入社員への対応に注意する必要があるか」を話したいと思います。
結婚や病気、転職などのライフイベントによって感じるストレスを0~100点で数値化して、人生の出来事と、そこから感じるストレスの関係性を明らかにした研究があります。日本の勤労者を分析したケースでは、その年に経験したストレスの合計が300点以上だと、うつ病などを発症するリスクが高い状態にあるとされます。
もっともストレス点数が高いのは「配偶者の死」の83点です。
新入社員が経験しやすい項目もあります。「会社を替わる」(64点)、「多忙による心身の過労」(62点)、「仕事上のミス」(61点)、「人事異動」(58点)、「同僚との人間関係」(53点)、「上司とのトラブル」(51点)、「睡眠習慣の大きな変化」(47点)、「引っ越し」(47点)などです。
学生から社会人になるというのは、人生の中でも一、二を争う大きな生活の変化です。働く場所も、人によっては住む場所も変わる中で、これまでやったことのない仕事を覚え、全く新しい人間関係を構築しなければなりません。
学生の間は昼まで寝ていても誰にも文句を言われなかったのが、職場では1分遅刻するだけで怒られます。
つまり、大学生から社会人へという激変を経験する新人たちは、その生活の変化だけで高いストレスを感じている。上司や先輩からのパワハラがなくても、そもそも新人はうつ病などになりやすいのです。
「じきに慣れるだろう」はNG
――仕事に慣れない春は特に、心身への負担も重そうですね
うつ病などの精神障害を発症して自殺し、労災認定された事例を分析した報告では、発症から自殺までの期間は、約半数がわずか29日以下でした。追い込まれた社員は、1カ月足らずで悲劇的な選択をしてしまうおそれがある。
「今はつらそうでも、じきに仕事に慣れるだろう」などと悠長に構えていると、取り返しがつかなくなってしまうことも考えられます。
――上司や先輩は、具体的に何をすればいいんでしょうか
上司の振るまいの参考になるのは、国のある調査データでした。この後も、専門家ならではの知見を交えて、部下への指導のポイント、自覚のない「パワハラ上司」の特徴などについて解説します。
まず大事なのは、新入社員が…
- 【視点】
学生から社会人になる時というのは、一番大きな環境の変化だというのは頷ける。 何が一番の変化かといえば、学生の間は、何かを強制されることは、それほど多くなく、基本的には自分で何をするかを選択できるし、時間の使い方も自由だ。 就職す