冷戦後、世界経済の唯一のシステムとなったものの、最近は格差拡大や貧困、バブルといった欠陥が目立つ資本主義。そこで岸田政権は「新しい資本主義」をテーマに掲げるが、いまだ具体像は見えない。いま何が求められているのか。主流派経済学と異なる立場から「成熟社会に見合った経済理論」を説く小野善康さんに聞いた。
――資本主義は曲がり角を迎えてしまったのでしょうか。
「人々がまだ貧しかった成長経済の時代、資本主義は非常にうまく働きました。しかしモノがあふれ物質的に豊かになった今日のような成熟経済では、慢性的に需要が伸びなくなり長期不況に陥りやすくなりました。今後も世界経済の基幹制度であり続けられるかどうかは、この構造的な欠陥をいかに克服するかにかかっています」
――欧米の専門家は低金利・低インフレ・低成長の長期停滞に陥ることを「ジャパニフィケーション(日本化)」と呼び、日本固有の問題とみてきました。
「その評価は的外れです。確かに日本は最初に長期停滞に陥りましたが、程度の差こそあれ近年は欧米諸国でも同じような状況が生まれています。これは資本主義の宿命と言ってもいい。人々がある程度豊かになってモノが満ち足りた成熟社会になると『もっと買いたい』という欲求が減って、お金のまま保有しておきたいという欲望は逆に高まる。これが長期停滞の原因です」
「どうしても欲しいもの」がなくなった成熟社会で必要な経済政策は何なのか。記事後半では、「質素倹約」という日本人の美徳がもたらす逆効果や、お金を配る経済政策への批判にも話が広がります。
モノの経済からお金の経済へ
――不況の原因が欲望ですか。
「無人島で暮らすのにモノは必要だがお金は何の役にも立ちません。それでもお金を持ちたいのは、資本主義下ではお金で好きなときに好きなモノと交換できるからです。経済学ではこの機能を『流動性』、それに対する人々の欲望を『流動性選好』といいます。これだけなら人間の欲望の範囲は日常に必要なモノの取引量に限られるはずです」
「ところがお金にはもう一つ…