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第1回末期がんの女性、最後の願いは離婚 ホスピスケア続ける院長の記憶

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木元健二
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 8月になると、その男性は必ず顔を見せた。遠く、古い街に暮らし、地元の和菓子をたずさえて。十数年前、乳がんで他界した元妻を思いながら。

 山陰・鳥取の「野の花診療所」。末期がんといった治癒の見込みがなくなった患者が暮らし、2、3日に一度、他界する。終末期の体の痛みや、心の苦しみを和らげようと、20年前からホスピスケアに手を尽くしてきた。家族への目配りも欠かせない。

 院長は、かつて鳥取赤十字病院の内科医だった徳永進(74)。今も毎年、男性の夏の訪問が忘れられないという。

 元妻の女性は50代で、ここにたどりついた時には、乳がんが全身に転移していた。

連載「死が、腑に落ちるとき」

20年前からホスピスケアを続ける「野の花診療所」。死を目前にした患者と歩んだ日々を、5回の連載で振り返ります。

ひとつあった未練

 「人生に未練はない」と言い放ち、夫であった男性から逃れてきた様子だった。しかし、未練はひとつあった。離婚することだ。

 患者の希望をかなえることがホスピスケアの柱だ。だが、そんな願いは徳永も初めて聞いた。娘も息子もいるという。女性の胸の内には、ついにそりが合わなかった夫の影が、わだかまっていたようだった。病状は一時、落ち着いたが、地元に帰ろうとはしなかった。

 診療所近くのアパートで暮らしたが、やせて、約3カ月後、また入院した。

 やがて診療所にいることを知った男性が、追いかけてきた。

 「ここにいたのか」…

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