震災前の大熊を一冊に、慶大生が住民に聞き取り 冊子「架け橋」完成

滝口信之
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 震災前の福島県大熊町で営まれた生業や伝統芸能を町民から聞き取り、記録した冊子「架け橋―伝えたい大熊の記憶―」(B5判)が完成した。震災の風化が進むなか、取材・編集にあたった学生は「多くの人に冊子を手にとってもらい、大熊町のことを知ってほしい」と話す。

 冊子では、町の特産だったナシやキウイ栽培、町を流れる熊川でのサケの放流などについて、町民が生き生きと語っている。協力した町民は、消防士やナシ農家、商店の店主など16組23人にのぼる。

 取材・編集担当は、国際問題を考える慶応大の学生団体「S.A.L.」のメンバー。2018年に国内問題に目を向ける「あじさいプロジェクト」を団体内に立ち上げ、東京都内で福島の米農家などを招いてイベントを開いた。19年10月からはNPO法人「元気になろう福島」(川内村)から町民を紹介してもらい、聞き取り調査を始めた。

 当初は対面で町民の話を聞いたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、20年11月以降はオンラインになった。当初から活動に参加している理工学部4年の岩田千怜(ちさと)さん(22)は「どの人も自分たちが育てていた農作物に誇りを持っていたことが、話の内容から伝わってきた」と振り返る。

 先月29日の完成報告会では、リーダーの法学部3年阿部翔太郎さん(20)から、吉田淳町長に冊子が手渡された。吉田町長は「震災対応を知らない職員が全体の半分を占め、職員内でも風化が進んでいる。職員にも読んでもらい、町民の思いを知るきっかけにしてほしい」と話した。

 メンバーらは今後、冊子を使ったワークショップをそれぞれの出身中学校で開く予定だ。阿部さんは「今後も大熊町に足を運び、話を聞いて、全国に発信していきたい」と話す。

 冊子は約2千部作成。町役場や宿泊交流施設「linkる大熊」などで無料配布している。詳しくは発行元の環境省福島地方環境事務所(024・563・5197)。(滝口信之)