飲食店の時短営業解除から1カ月 影響続くタクシー業界

吉村駿
[PR]

 群馬県内の飲食店への時短要請が解除され1カ月が過ぎた。街には活気が戻りつつあるが、タクシー業界への影響は長引いたままだ。街を走る運転手からは「これから乗客は戻ってくるのか」と不安の声が上がる。(吉村駿)

乗客の戻り半分「涙出そう・・・」

 「今夜も厳しそう。もう涙が出そうだよ」

 4月中旬の土曜日の夜。JR前橋駅前のタクシー乗り場で客待ちをしていた70代の男性運転手は、ため息交じりにつぶやいた。

 本来、歓送迎会が増える3、4月は稼ぎ時。午後11時を過ぎると、居酒屋が集まる前橋市千代田町では酔客の手が挙がり、配車無線も鳴りはじめる。夜の客は長距離を乗る「ロング」が多かった。車で1時間ほどの館林市や、埼玉県深谷市まで乗せることもあった。

 男性は「僕らの給料は歩合。走る分だけ自分に返ってくる。『ロング』が多い週末は特にやりがいがあり楽しかった」と振り返る。

 コロナ禍で飲食店が時短営業になると、乗客も給料も普段の3割ほどに。それでも「いまは仕方無い」と割り切って働いた。

 ようやく飲食店が通常営業に戻って1カ月が過ぎた。街の活気を感じながらも「本当に乗客は戻ってくるのかと、逆に不安になってきた」。乗客は通常の半分までしか戻らない。

 人はいるけど、早い時間に飲む人ばかり。「午後10時を過ぎると、酔っ払いを見かけなくなった」と感じる。午後10時だと電車やバスでも帰宅できる。「なかなかタクシーは使わないよな」と自嘲気味に笑う。

 男性は最近、JR前橋駅で東京方面から到着する最終電車を待つ。寝過ごした客は「ロング」となる可能性が高い。

 「もう街を走っても無理。期待はあまりしていないが、ここで待ちます」

 男性の3台後ろで客待ちをしていた50代の女性運転手は、スマホで動画を見ていた。「いまは本当なら繁忙期。もっと働けるのに」と苦笑いを浮かべる。

 女性のスマホ契約は「動画見放題プラン」。飲食店が時短営業となった2年前に「時短営業が終わり、乗客が戻るまで」と契約した。だが、いまもその動画見放題のスマホが、退屈な待機時間のお供だ。

 女性は「本当は翌日の2時まで働きたいけど、今日も0時で終わる予定です。人がいない街にいてもしょうがないので……」。

24時間営業負担「支援が不可欠」

 群馬県タクシー協会によると、県内の事業者数は利用客が減ったことに伴い、2年前の61から今年3月末時点で55に減った。約1500人いた運転手も1300人に減ったという。

 協会の清水憲明会長(63)は「やっと飲食店が通常営業に戻ったが、思ったほど状況は変わらない」。高崎や前橋、太田など飲食店が多い街の事業者ほど、売り上げが落ち込んだままだという。

 「僕らは交通機関。『厳しいから走らない』というわけにはいかない」と清水さん。深夜に急病人を病院に送ったり、始発前の早朝に出勤する会社員を送ったりすることもある。資金繰りが厳しい中でも、乗客のために24時間営業を続ける事業者が多いという。

 だが、深夜から翌朝までタクシー1台を動かせば、月に100万円の経費がかかる。今でもその経費を売り上げでまかなえない事業者が多く、「24時間営業を見直さなければならない」という。

 協会はこれまで複数回、群馬県に支援金などを求めてきたが、支援は届かないままだ。清水さんは「大事な時に『タクシーがない』ことは避けたい。県民の足を守るため、行政の支援が不可欠だ」と話す。