「ラジオの前の皆さん、身の安全の確保をお願いします」
「南浜町は水没しているとのことです」
「鮎川浜は壊滅状態との情報が入っています」
水没? 壊滅って何? とにかく大変なことが起きている。高橋幸枝(ゆきえ)(46)はマイクの前で懸命に言葉を探した。
宮城県石巻市の内陸部・蛇田地区にあったコミュニティーFMのラジオ石巻。2011年3月11日の地震直後から、録音番組が災害放送に切り替わっていた。スタッフがネットなどで情報をかき集め、アナウンサー2人が伝え続ける。
停電でテレビが消え、津波の映像は入ってこない。1階のスタジオだけは、非常用電源で照明がついていた。
余震が絶えない。「現在地鳴りがしています。揺れが来そうです。大きな揺れです、大きな揺れです」
午後5時を回った頃だ。
「リスナー」たちから、切羽詰まったメールが届き始めた。
「大街道小にいる人の情報では、体育館の扉の半分まで水が来ているということです」
「鹿妻(かづま)小に避難している母と連絡がとれません」
「八幡町のがけの上で車10台が退路を断たれ、孤立しています。早めの救助をお願いします」
次々差し入れられるメモに、高橋は少しひるんだ。本当に読んでいいのか。この状況で、この放送で、誰かの命を助けられるだろうか。
アナウンサーの高橋さんに向けて出されたSOS。記事の後半では、助けを求めていた主を記者が捜しました。(敬称略)
「石巻市湊のアカミチ・ヤス…