「あなたの顔がわからなくなるのが怖い」妻の悲しみ、そのとき家族は

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松本一生
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 認知症によっては症状が進むにつれ、顔を見て、夫や妻、息子や娘だと分かりにくくなることがあります。「あなたの顔がわからなくなるのが怖い」。そう言われたとき、周りはどのように接したらよいのでしょう。家族が認知症にどう向き合えばいいのか、今回から「対応編」として、精神科医の松本一生さんが解説します。

 これまでこのコラムで何度も書いてきたように、認知症の症状は一様ではありません。ある病気になった場合、その病気の症状がほぼ共通していると対応しやすいのですが、認知症をはじめメンタル領域の病気では多様な症状を示すために、病気に対する対応に困ることが多々あります。

 今回のテーマのように家族や友人の顔を認識することができなくなる(視覚失認といいます)ことや、かつて記憶していた記憶が薄れることを自覚し、その事実にがくぜんとして恐怖を感じる人がいます。ところが、一方ではそのような事実があったとしても、本人はそのことに気づかず、その人をケアする介護家族が悩むこともあります。

 今回は本人がその事実に悩み、苦悩する場合に周囲の人がどう対応するか、ともに考えていきましょう。個人が特定できないように細部に変更を加えて紹介します。

「夫はどんな顔だった?」 だんだん思い出せなくなる

 もうずいぶん前の話ですが大阪市の大病院から紹介されてきた81歳の血管性認知症の高柳良子さん(仮名)は、私の診察室に入るなり泣き始めました。私は認知症専門医精神科医なので、少し腰を落ち着けて彼女の話に耳を傾けることにしました。初診の場合、家族が付き添って来院することも多く、良子さんの場合にも夫の陽介さん(仮名)が寄り添っていました。

 彼女はすでに大病院で精密検査を受けて血管性認知症と診断され、彼女と夫の承諾のもと、告知(病名を告げられること)を受けていました。それゆえ診断に対する疑問や悩みはなかったのですが、一方ではしっかりと自分の状態がわかっているだけに、次のような悩みをこちらにぶつけてきました。

 「私は自分の病気に絶望する…

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松本一生
松本一生(まつもと・いっしょう)精神科医
松本診療所(ものわすれクリニック)院長、大阪市立大大学院客員教授。1956年大阪市生まれ。83年大阪歯科大卒。90年関西医科大卒。専門は老年精神医学、家族や支援職の心のケア。大阪市でカウンセリング中心の認知症診療にあたる。著書に「認知症ケアのストレス対処法」(中央法規出版)など