相続「1円も渡したくない」 「争族」にしないためにできること

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聞き手・机美鈴
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 日本は「相続最多時代」が到来しています。昨年は145万人が亡くなり、戦後最多を更新、今後も増えるとみられます。それに伴い、遺産をどう分けるかをめぐって相続人同士が争う「争族(そうぞく)」のリスクも増しています。4千件以上の相談に応じてきた相続コンサルタントの吉澤諭(さとし)さん(55)に争族を避けるためのアドバイスを聞きました。

よしざわ・さとし 

吉澤相続事務所代表。住友信託銀行・あおぞら銀行で相続対策を多く担当し、48歳で独立。相続と事業承継に特化したコンサルタントとしてセミナー講師、個別相談に応じる。著書に「トラブルの芽を摘む相続対策」「トラブル事例で学ぶ失敗しない相続対策」(ともに近代セールス社)がある。

 ――相続に際して経験した困りごとを募ったところ、親の急死で困った、きょうだい間でもめたといったエピソードが多く集まりました。

 相続の対策といえば、相続税(節税)、納税資金の確保、遺産分割の三つですが、最も難しいのは遺産分割です。相続税は具体的な対策を講ずればそれなりに負担を軽くできます。でも、争族に特効薬はありません。こうすれば絶対にもめない、互いに納得するといった魔法はなく、落としどころを探るしかありません。

 同じ取り分でAさんは納得しても、Bさんは断固拒否かもしれない。それぞれが抱える背景や考え方で、最良の結論は異なります。何が正解かすらわからないのが遺産分割です。

 姉妹間の協議で、「姉が自分より1円多いのが許せない」という人もいました。見かねた妹の夫が「それなら1円は僕が出すよ」と言ったら逆上していました。そういう問題ではないのだと。

 ――外野としては「譲り合いの精神を持てばいいのに」と思ってしまいますが。

 人それぞれに事情があります。嫌いな人は嫌いだし、許せないものは許せない。それはしょうがない。積年の思いが噴き出します。最初は損得で始めた話し合いでも、長引くと相手をおとしめたい、困らせてやりたいということが目的化する人もいます。

――なぜそこまで。

 わかりません。人の感情ですから。どうしても譲れない何かがあるのでしょう。調停で折り合いがつかなければ裁判になりますが、裁判は証拠に基づいた法律上のジャッジでしかない。判決が出たからと言って「今までごめん」と仲直りできるわけではなく、時間もお金もかかります。勝っても負けても納得感に乏しい結果になることが多いです。

 ――もめごとを回避するために、打てる手はありますか。

 親が元気なうちからコミュニケーションを取れている家族はもめにくい。例えば、生前贈与が死後に判明して気まずくなるよりは、なぜそうした贈与をしているのか、自分の言葉で語っておいた方が納得感を得られやすく、争いに発展しづらいでしょう。

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