第90回ロシアの戦争犯罪追及、立ちはだかる壁 国連総会ができる一手とは

有料会員記事ウクライナ情勢

聞き手・佐藤達弥
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 ウクライナ南東部マリウポリ近郊で集団墓地とみられる跡が相次いで見つかり、大勢の市民が殺害されたおそれが改めて強まっています。国際刑事裁判所(ICC)の検察官は4月中旬にウクライナ入りし、戦争犯罪などの疑いでの捜査を本格化させました。そもそも、戦争犯罪とはどういうものを指し、捜査はどのように進むのでしょうか。国際法が専門で、国連の国際法委員会の委員にも内定している浅田正彦・同志社大教授(京都大名誉教授)に聞きました。

ローマ規程が定める四つの犯罪の類型とは

 ――そもそも、戦争犯罪とはどういうものでしょうか。

 戦争犯罪の概念には歴史的な変遷がありますが、今日、戦争犯罪は何かと問われた場合には、ICCの裁判手続きなどを定めたローマ規程が定義する戦争犯罪をいうものと考えてよいでしょう。

 ローマ規程は「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪」として集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の四つの類型を挙げています。メディアではこの四つ全部が戦争犯罪であるかのように扱われることもありますが、戦争犯罪はICCが対象とする犯罪類型の一つであって、ほかの三つとは別の犯罪類型ということになります。

 ――ほかの三つは、戦争犯罪とはどう違うのでしょう。

 集団殺害犯罪は、戦争中に限らず、特定の国の国民や民族、宗教的な集団を破壊する意図をもってその人たちを殺したり、手術などを施して子どもを産ませないようにしたりすることです。一般に相当な規模であることが必要ですし、何よりも集団そのものを破壊する意図をもって行われたことが立証されなければなりません。

 人道に対する犯罪は、戦争中に限らず、他国や自国の文民(民間人)に対して行われる殺人や奴隷化、拷問、強制移送などの非人道的な行為を指します。

 侵略犯罪は、国連憲章に明白に違反する他国への武力行使の計画や実行などのことで、国家の指導層を処罰の対象として想定しています。

 これらの犯罪類型に対して、戦争犯罪は戦争中に行われる戦争法(武力紛争法)に違反する行為の中でも特定のものを指します。ローマ規程によれば、文民(民間人)や学校、病院といった軍事目標以外の施設を故意に攻撃すること、拷問、性的暴行などが戦争犯罪として列挙されています。

戦争にルールを設け、悲惨な状況を回避

 ――戦争法・武力紛争法というのは武力紛争での不必要な犠牲や損害を防ぐとともに、戦闘に参加しないすべての人を保護することを目的とした、国際的な条約を中心とするこの分野の国際法の総称のことですね。

 そうです。もっとも、侵略犯罪以外の三つについては、相互に重なる部分もあります。集団殺害犯罪や人道に対する犯罪には戦争中に行われる行為も含まれますので、場合によっては1人の被告が戦争犯罪に加えて人道に対する犯罪、さらには集団殺害犯罪で起訴されるということもありえます。

 ――一般の感覚からすると、戦争をすることそのものが犯罪だと思います。なぜ戦争をすることを前提に、「民間人を攻撃してはいけない」といったルールが設けられているのでしょうか。国際法は戦争をすることを認めているのでしょうか?

 そうではありません。国連憲…

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