第1回ホンダF1、大逆転の最終章 「決めたから何も言うな」から始まった
時速300キロオーバー。そこは空気さえ壁となって立ちはだかる世界。
それをナイフのように研ぎ澄まして空気抵抗を減らした車体で切り裂き、化け物じみた加速で走り抜けていく。
ライバルより1000分の1秒でも速く。もっとパワーを。もっとスピードを――。
モータースポーツとは、言い換えれば機械と人間が、リスクを背負いながらともに限界へと近づこうとする営みだ。
その最高峰が「フォーミュラワン(F1)」。ホンダは、半世紀以上前からこの世界に挑んできた。
4月9日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)。ホンダのF1での戦いを支えてきた山本雅史(58)の姿は、ここにあった。
F1に似た、国内トップカテゴリーのひとつ「スーパーフォーミュラ」開幕戦。ホンダを去った山本は「主戦場」を、今年からここに移した。
「やめたら、家庭サービスをするつもりだった」と笑う。「このチームに声をかけてもらったことに感謝している」
監督に就任した「チームゴウ」のオイルのにおいがむせかえる作業場のピットで、モニター越しにレースを見つめる。視線の鋭さは以前と変わらない。
ホンダの車を愛し、ホンダでレースを始め、レースに関わり続けた半生。過去の様々な出来事が積み重なって、山本はいま、ここにいる。
2021年を最後に、F1からの撤退を決めたホンダ。社員たちは「このまま終わっていいのか」と自問自答した。思いが一つになった時、見えた世界とは――。どん底からはい上がった社員たちの大逆転の物語に5回連載で迫る。
動き始めた終幕への時計
2年前――。
新型コロナウイルスにより、世界中に不安が広がっていた2020年春。F1の開幕戦も中止となり、この時点で開催日程は見通せない状況になっていた。
そのころ、東京・青山のホン…
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