敵基地攻撃の本質は「先制攻撃」 専守防衛の堅持を 憲法施行75年

聞き手・北沢祐生
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 ロシアのウクライナへの軍事侵攻は終わりが見えないなか、3日、日本国憲法は施行から75年を迎える。政治の場で「敵基地攻撃」「核共有」などの言葉が飛び交ういまこそ、平和主義を掲げる憲法の価値を共有することが大切ではないか。憲法・教育法学が専門の新潟大名誉教授、成嶋隆さん(74)に聞いた。

――成嶋さんら80人超の憲法研究者が連名で3月、ロシアの軍事侵攻に抗議する声明を出しています。「人類が『欠乏からの自由』と『恐怖からの自由』を享受し、平和のうちに生存するために必要な、地域と国家と社会と環境とが、いま深刻なダメージをうけている」と。

 「事態はさらに深刻化していますが、加えて、これに乗じるように、自民党内から『敵基地攻撃能力』や防衛費の大幅増などが主張されてきていることを懸念しています」

――党安全保障調査会が4月にまとめ、首相に提出した提言案では敵のミサイル発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と改称し、これを保有するとしている。現在の対GDP(国内総生産)比で約1%の防衛費を、2%以上を念頭に「5年以内に必要な予算水準の達成を目指す」としました。

 「従来のミサイル防衛システムが破綻(はたん)していることから、攻撃は最大の防御とばかりに唱えられたのが『敵基地攻撃能力』論。だが、発射の兆候を探知して相手の発射基地をたたくという戦法だから、本質は先制攻撃だ。『反撃能力』と言い換えても何ら本質は変わらない。攻撃対象を『指揮統制機能等も含む』と拡大したことも論外だ」

 「これは、相手の中枢である首都や人口密集地が攻撃対象となり得るわけで、相手からすれば完全な武力行使。ウクライナのように多くの市民が巻き込まれる可能性もある。何よりも憲法9条から導かれている『専守防衛』という原則からの逸脱は許されないということです」

 「侵略戦争を放棄し、戦力は持たないとする9条のもとで、先制攻撃は絶対にできない。『専守防衛』は、憲法が要請する最低限のラインで、この一線だけは譲れない。だが、安倍政権下での集団的自衛権の行使を容認した閣議決定や、その後の安全保障関連法制定という『違憲立法』で、逸脱は続いているのが現状だ」

――今の世界情勢から、憲法や9条に対する攻勢が強まるのでしょうか。

 「ウクライナの現状を見て、9条があっても侵攻は防げないと、9条無用論を唱える論調が強まっています。しかし、かつての侵略戦争の反省からいまの日本国憲法があり、憲法の要請である『専守防衛』原則を堅持してきたことで平和国家のブランドを獲得してきた」

 「この日本の平和主義に不信をもたらし、軍事的緊張を高めるようなことは、決してしてはならない。前文で『名誉ある地位を占めたい』とうたう憲法が求める、日本が取るべき立場とは何なのかをいま一度、考える必要があるのではないでしょうか」(聞き手・北沢祐生)

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 なるしま・たかし 新潟大・獨協大法学部教授、日本教育法学会長などを歴任。現在、新潟県憲法会議議長を務める。著書(共著)に『教科書裁判と憲法学』『教育法学と子どもの人権』など。新潟市在住。