ロシアによるウクライナ軍事侵攻などで、日本の安全保障環境が厳しくなっているとして、政府や自民党は、日本を攻撃しようとする外国の基地をたたく「反撃能力」の検討を進めています。自民党内では、憲法への自衛隊の明記を求める主張も出ています。
「戦争放棄」や「戦力の不保持」を明記した憲法9条との関係はどう考えればいいのか。慶応義塾大の小林節名誉教授(憲法学)に聞きました。
自衛隊の憲法明記 どう考える?
――安倍晋三元首相は4月の集会で、憲法改正で自衛隊を明記したいとの考えを改めて示し、「自衛隊の違憲論争に終止符を打つことが政治家の責任だ」と述べました。
憲法は「国の骨格」を書くものです。国会と内閣、最高裁判所などは明記されていますが、ほかの細かなことは国会や内閣が法律と予算で工夫をしていけば良いということになっている。だから、自衛隊や防衛省だけではなく、役所の中の役所といわれる財務省だって憲法に書かれていない。行政法に書けば済むからです。
――「違憲論争に終止符を打つ」という安倍元首相の主張をどう見ますか。
自民党の自己矛盾です。自衛隊を作り、予算をつけて運営してきたのは、戦後、ほぼ一貫して政権を握ってきた自民党を中心とする内閣や国会議員。「違憲だ」と思っていたら、作らなかったはずです。合憲だとの理屈を持っているのですから、国民に説明すれば良いでしょう。
「政治の現実を見てしまった」
――小林さんは過去には「護憲的改憲論者」と呼ばれ、9条の平和主義は維持しつつも、「日本が攻撃された場合は、自衛のために個別的自衛権を行使する」と明記する改憲が必要だ、という立場でした。
かつてはそうでしたが、今は改憲を求めていません。自民党の改憲論議に長年つきあい、政治の現実を見てしまったからです。
憲法は、主権者である国民が、国家権力をうまく運営するためのマニュアルです。政治家は、このマニュアルに従って権力を行使しなければいけませんが、実際には憲法で縛られることに不自由さを感じ、「やりたいことをやらせろ」と憲法を脱ぎ捨てようとしている。国家権力の私物化です。こうした政治の危険な現状を知り、改正論議には付き合わず、今の憲法を使いこなしていこうという立場に変わりました。
かつて改憲論者の旗手として知られた小林節さんはいま、改憲の「非」を説き続けています。かけがえのない「命の重み」を知ったことが、学者としての転機につながりました。
――考え方の変化には、ご自…
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