「ここに鍵をさして開けるんやで」
マンションのエントランスホール。京都市の女性(50)は、60代後半だったアルツハイマー型認知症の母に、オートロックの扉の開け方を繰り返し説明した。数年前のことだ。
しかし、何度伝えても、母はどうしても1人ではできなかった。
母はもともと実家で一人暮らしだった。身の回りの介助が必要になってきたことから、長女である女性が住む分譲マンションで、別フロアにあった空き部屋を購入し、入居してもらった。
母は自宅玄関ドアの鍵は開けられた。しかし、オートロックの扉を解錠してマンションに入ることができない。エントランスのインターホンで呼び出されても、エントランスではなく自宅玄関のドアを開けてしまい、オートロックの解錠操作ができなかった。
マンションで暮らす認知症の住民が増えています。2025年には認知症の人が高齢者の5人に1人を占め、国内で約700万人に達する見通しです。認知症の人がマンションで安心して暮らすためには、何が必要なのか。高齢化するマンションの現状をお伝えします。
日中は仕事で不在になる女性は、母が通うデイサービスの送迎に困り、管理員に「(送迎で)必要なときはオートロックの扉を開けてもらえないか」と頼んだ。
最初は「防犯上できない」と断られたが、最後には対応してくれるようになった。
母は昼夜を問わず、自宅を出て「ひとり歩き」をするようになった。GPS端末が装着できる靴を母に履いてもらい、見守った。
女性の部屋を訪ねようとして、「部屋はどこ?」とマンションの子どもたちに聞こうと追いかけてしまったり、別の階の部屋のインターホンを鳴らしてしまったり。そんなトラブルも増えてきた。
一部の住民から、「仕事をやめて面倒をみては」「施設に入れては」と直接言われたこともあった。
冷え込みが厳しかった、ある日のこと。
その夜、母は、靴を履かずに…