日本一の栗の里 アイデアとこだわりで付加価値 栗拾いロボットも

編集委員・藤生明
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 4月の茨城着任直後に笠間市長選があり、張り切って取材で街を訪ねると、若い栗の木の畑にすぐ気がついた。聞けば日本一の栗の里だという。私の知る「大きな栗の木」の栗と同じなのか違うのか。がぜん興味がわいてきた。

 JR岩間駅に近い人気の栗販売店「あいきマロン」。創業者の稲垣繁実さん(76)に自社生産する農場を見せてもらった。小さなやぐらを上ると、一面に栗畑が広がっていた。

 昨年から、ドローンで農薬散布を始めたという。「ここで操縦するんですけど、栗の農薬散布にドローンを導入したのはうちが初めてじゃないかな」

 もともとは精密部品の加工会社経営者だった。リーマン・ショックで売り上げが急落したとき、遠方の知人に「笠間と言えば栗ですよね」と言われてハッとしたのがきっかけだった。

 2010年に1・6ヘクタールの畑を借り、栗生産をスタート。いまでは8・1ヘクタールまで拡張。そんな「新参」の稲垣さんが業界で注目されているのは矮化(わいか)栽培とよばれる生産法で特許をとり、事業化したからだ。

 この栽培は、木の高さを約2メートルに抑え、面積あたりの収穫量増や、大きな実を育てる生産方法。実の糖度も高い。県の機関が調べたところ、10アールあたりの収量は県平均の2・7倍、収穫時の糖度は通常の栗の3倍以上だったという。

 「木が低いので脚立いらず。お年寄りや女性も作業がしやすい」と稲垣さん。栗が落ちる前に、割れたイガグリを棒でたたいて落とすため、収穫は3日に1回で済むという。

 ドローンの農薬散布も低木だからこそ実現した。また、落とした枝を炭にし、店で売る焼き栗づくりの燃料に使う。長年機械を扱ってきた経験から省力・省人化に余念がない。

 「木を植えて口に入るところまで、いろんな段階で付加価値に知恵を絞る。愛情を注いだからこそ、自分で大切に売る。それが『6次産業化』だと思っています」

 稲垣さんの栽培法が注目を集め、全国から視察が訪れる一方で、実の大きさや収穫時の糖度に重きを置かず、自然な栽培や鮮度を大切にする人々も多い。知るほどに栗の世界は奥深い。

 ようかんの老舗やスイーツの名店など、全国に取引先をもつ笠間市の栗加工会社「小田喜(おだき)商店」の社長、小田喜保彦さん(64)は「うちの栗は特別栽培ではありません。鮮度を守れば日本の栗はみなうまいですから」と話す。店先では童謡「大きな栗の木の下で♪――」が流れる。

 鮮度のためには、地面に落ちた栗の実をいかに速く農家に届けてもらえるかが重要になる。「甘みは加工で出せますが、風味は出せない。鮮魚と一緒です」

 朝昼夕に拾い、日に3回届けてくれる農家も中にはいるそうだ。「そこまで求めないですが、毎日届けてもらわないとおいしい商品にできません」と小田喜さんは話す。

 4月29日、笠間市とJA常陸、JR東日本水戸支社が出資する「笠間栗ファクトリー」(社長・山口伸樹市長)の加工工場が完成し、竣工(しゅんこう)式があった。本格稼働は今秋。ペースト・甘露煮・渋皮煮をつくり、「笠間の栗」の消費拡大、ブランド価値の向上に取り組むという。

 行政のてこ入れで、笠間の栗の相場は最近上昇。農家もやる気をみせる。新しく植えられた栗畑が目立つのはそのためだ。栗拾いロボットの試作も報じられたりした。

 そうした機運の高まりを歓迎しつつも、小田喜さんは「霞ケ浦にかけての一帯など、栗生産のさかんなところも合わせて、『茨城の栗』として一緒に盛り上げてほしい」と願う。

 茨城の栗は生産量シェア2割強の全国一(農林水産統計、2022年4月公表)。稲垣さんや小田喜さんら、栗に愛情をそそぐ人たちもたくさんいる。知名度で丹波(兵庫・京都)、小布施(長野)の後塵(こうじん)を拝していてはもったいない。(編集委員・藤生明)