認知症ケアをアートで 山梨県立美術館でワークショップ
アート作品を見ながら語り合い、認知症の精神的ケアにつなげようという「認知症ケア美術鑑賞ワークショップ」を、山梨県立美術館(甲府市貢川1丁目)が開いている。アートから受ける刺激を通して認知症の人の想像力を膨らませ、会話を弾ませる試みだ。
「これは何に見えますか?」「絵のタイトルを想像してみてくださいね」
4月28日に同館展示室内であったワークショップには、認知症の人と家族や介護者計10人が参加。同館の所蔵作品3点の前でそれぞれ30分ほど対話しながら鑑賞し、認知症の人が感じたままを語った。
ワークショップは進行役の「アートコンダクター」の質問に答える形で対話を重ねる鑑賞プログラムだ。一般社団法人「ArtsAlive(アーツアライブ)」(東京都)が、アートを通して時空を旅してもらう「アートリップ」として各地の美術館や高齢者施設などで実施している。
この日、アートコンダクターを務めた山梨県北杜市の輿石美和子さん(66)は「社会活動が制限されている認知症の方も多いが、アート作品を見て自由に話し合うことはいろんな刺激になり、すごくいいこと」と、対話型鑑賞を進めていった。
ミレーの豊富なコレクションで知られる同館。ミレーの大作「冬(凍えたキューピッド)」は、寒さに震えながら雪の中を歩いてきたキューピッドが、暖かな部屋から出てきた女性と老人に助けてもらっている場面を描いた作品だ。
輿石さん「この子はどんな状態ですか?」
女性「女の人が子どもをいたわっている感じ」
輿石さん「どんな声をかけていますか?」
男性「『家の中に入りなさい』と言っている」
輿石さん「様子は?」
女性「寒い。冷え切っている」
男性「家の中に入れて、温かいスープを与える」
会話が弾んでいく。輿石さんは「みなさんのように温かい気持ちで介抱している絵です」と解説した。
山梨にゆかりのある日本画家、鈴木美江の作品「立つ」の前では、着物やドレス姿の女性が描かれた絵を見ながら「どんな人ですか?」「髪形は?」「どういう場面?」と次々に質問。すると、1人の女性が「子どものころ、おばあちゃんがよく着物をこしらえてくれた」と話し出した。これを機に、参加者同士が昔を思い出すように絵の感想をそれぞれ語り合った。
約1時間半の美術鑑賞。70代女性は「絵をこんなにきちんと見たことはなかった。一人暮らしなので、友だちを誘ってまた美術館に来たい」と笑顔を見せた。
輿石さんは「最初は言葉が出てこなくても、質問を重ねるうちに表情も明るく生き生きしてくる。アート鑑賞は認知症の進行を遅らせると言われる知的な刺激になります」と語る。
同館は2018年からワークショップを年数回行っていて、今年9月と来年3月にも開催予定。担当者は「絵の世界の中を旅してもらい、心の種をまいていただければ」と話している。(石平道典)