廃業寸前の温泉旅館、湯に入ったらビビビ!銀行やめて養子になった私

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張春穎
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 脱サラして養子になる。反対するなら、離婚したって構わない――。そんな決意で、営業先の老舗温泉旅館を継いだ銀行員がいる。

 「一度入ったら、忘れられない湯。やわらかな肌触りで、『一浴(いちよく)玉(たま)の肌』と言われています」

 群馬県中之条町の山あいにある沢渡(さわたり)温泉で、老舗の「まるほん旅館」を営む福田智(さとし)さん(55)は話す。

 強酸性の草津温泉に入った湯治客が肌を癒やしに立ち寄る「草津の仕上げ湯」として昔から知られ、コロナ禍で客足は遠のいたが、根強いリピーターがいる。

 ただ、この旅館。20年ほど前は廃業寸前だった。

 「もう更地にしよう」

 嘆きの主は、当時70代半ばの先代・勲一さん。息子を交通事故で亡くしていた。温泉街でも中核の旅館だけに、地域のためにも残したいと、奔走した末の言葉だった。

 地元銀行で外回り営業をしていた智さんは後継者を探した。親切心ではなく、仕事として。当時、働き盛りの30代半ば。近くの四万温泉の経営者、東京のリゾート会社……。十数社を探しだし、金額もいい。銀行として、手数料が見込める。

 「いい話」だが、先代には譲れない一線があった。

 「お金じゃない。今の形を引き継いで欲しいんだ」

「俺がやります」 猛反対する妻に「離婚だ」

 温泉付きの個室に変える高級化、支配人を派遣する経営。そんな買い手の発想が気にいらない。リピーターを大切にして欲しいと。

 一緒に頭を抱えた智さんは、初めて湯を借りた。宿泊客は夕食中で湯に1人。

 びっくりした。

 「ビビビビビッと。感動の電気が走ったんです」

 温泉好きで各地を旅したが、この感覚は初めてだった。サラッとして、体がカッカと熱くて。

 潰したくない。

 「俺がやります」。後日、冗談交じりに話した。先代の人柄に触れ、経営にも関心があった。

 先代は言ってくれた。

 「お前が一番分かっているから、やればいい」

 急展開をみせた。

 当時、地域の決まりで、源泉…

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