ヒトラーにはユダヤ人の血が流れていた――。ロシアのラブロフ外相がメディアのインタビューでした発言に、ユダヤ人がたくさん住むイスラエルをはじめ多くの国から非難が殺到しました。ラブロフ氏個人の失言かと思いきや、ロシア外務省はイスラエル外相の批判は歴史に反している、などと反論。しかし、5日に事態は一転しました。プーチン大統領がイスラエルのベネット首相に「謝罪した」と、イスラエル首相府が発表したのです。
イスラエルは、これまで米国や西欧などが中心となって進めてきた経済制裁には加わらず、ロシアとウクライナの間に立って仲介役を担おうとしてきました。この一連の出来事をどうみることができるのか。ロシアとユダヤ人の関係という視点から、イスラエルの元駐ロシア大使で、ハイファ大学のアリザ・シェンハー教授に聞きました。
アリザ・シェンハー
1943年生まれ。イスラエル・ハイファ大学教授。専門はヘブライ文学。1994~97年、イスラエルの駐ロシア大使を務めた。イスラエル第3の都市ハイファの元副市長でもある。
――「謝罪」までの経緯をどう見ますか。
ラブロフ氏の発言は、典型的な反ユダヤ主義を表した言葉でした。今の時期にプーチン氏の意向を無視してラブロフ氏が話をしたとは考えにくいです。
ただイスラエルにとって、この「謝罪」は重要です。イスラエルはユダヤ人の国家を称している以上、イスラエル首相には各国のユダヤ人とそのコミュニティーを守る責任がある。少なくともユダヤ人の多くはそう考えています。そしてロシアのユダヤ人コミュニティーも大きい。ここでベネット氏が何もできなかったとなると、ダメージは大きかったでしょう。
一方、ロシアはイスラエルが敵対するシリアやイランに大きな影響力を持っています。イスラエルのシリアへの攻撃はロシアを無視してできません。決定的な対立をするわけにはいかない。そのためプーチン氏の「謝罪」を受けたという形でおさめたのでしょう。実際ロシア大統領府は謝罪を明言していません。もっとも否定もしていませんが。
「ヒトラーにユダヤの血」は失言?
――ユダヤ人への反発による発言ではない、ということですか。
誤解してほしくないのですが…