AIが示した未来シナリオ、長野県にとっての理想は 政策決定に活用

菅沼遼
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 長野県が策定を進めている来年度からの県政運営の基本方針「総合5か年計画」で、人工知能(AI)による分析が議論に活用されている。過去の統計をもとに膨大な計算を繰り返し、複数のシナリオを提示。行政、教育、産業など各分野の代表者の知見に加え、客観的データの裏付けをもとに政策決定を行おうという試みだ。

 4月25日、県庁で開かれた審議会(会長=中村宗一郎・信州大学長)で、「AIを活用した長野県の未来に関するシミュレーション」という資料が県から示された。京都大の広井良典教授(公共政策)、日立グループのコンサルティング会社とともにまとめた分析結果だ。

 シミュレーションでは、「環境」「健康・医療・介護」「結婚・出産・子育て」など12分野から、「再生可能エネルギー自給率」「健康寿命(男女平均)」「婚姻件数」など計215項目の指標を選択。過去22年分の統計データなどをもとに、指標間のつながりを数値化した「因果連関モデル」をつくった。

 このモデルをもとにAIが2050年の県の未来を予測。2万通りの計算結果から、明るい未来から暗い未来まで、7通りのシナリオが示された。そこから「望ましい未来シナリオ」を探った。

 理想とされたのは、「環境・経済が両立し交流も活発で、持続可能な社会づくりが進んでいる未来像」。AIはこの未来に進むために、分岐点となる年と、カギとなる指標も示した。

 最初の分岐点となる29年までに、「県内大学の収容力」など若者関連と、「最終エネルギー消費量」などの環境関連の指標を改善することが望ましいとした。中長期的には、高齢者、雇用、観光、農林業に関わる指標が重要となる、という結果だった。

 広井教授は「長寿、環境という長野県の強みを生かしながら、若者支援、公共交通といった課題点を改善し、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った社会像を実現していくという方向が示されている」と解説した。

 県は18年度にAIを活用したシミュレーションを「政策研究」として初めて実施。今回は計算のもととなる統計データを増やすなどし、より客観性を高めたという。

 審議会の委員からは「数字に表せなくても大事な指標もあるのではないか」との意見もでた。広井教授は「まだ試行錯誤の段階でもある。ただ、客観的根拠に基づく政策立案の重要性が言われる中で、AIシミュレーションは新たな試み。長野県が継続的に取り組むのは、全国でも先駆的な意味を持つ」と話した。

 阿部守一知事は「政策の責任を負う私の立場から見ると、悪いシナリオに行かないように迫られているようにも感じる」と、危機感を強めた様子。「まず29年までに、重要な施策をスピード感をもって取り組みたい」と話した。(菅沼遼)

AIが示した「望ましい未来シナリオ」に向かうためのポイント

【分岐点1(2029年)まで】

・教育や仕事で若者にとって充実した選択肢があること

・エネルギー消費量が抑制され、森林が維持されていること

・地域交通が維持されていること

【分岐点2(2034年)まで】

・高齢者や支える人が暮らしやすい環境であること

・雇用機会の広がり、女性が活躍できる労働環境が整っていること

【分岐点3(2037年)まで】

・自然公園など長野県の魅力が生かされ、観光面で人をひきつけていること

・農林業において、担い手の確保や生産性の向上が進んでいること