ウクライナ侵攻、引きずり出される大戦のトラウマ ドイツの葛藤とは

有料会員記事ウクライナ情勢

構成・藤生京子
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小林敏明さん|哲学者

 ロシアによるウクライナ侵攻は、欧州において第2次大戦以来の大規模侵略に発展しかねないとの見方がある。欧州で生活を営む人々はどんな感覚を抱いているのか。四半世紀以上をドイツで暮らし、ライプチヒ大学東アジア研究所教授を務めた小林敏明さんに、専門の哲学と精神病理学の立場から話してもらった。

 こばやし・としあき 1948年生まれ。96年、ライプチヒ大学東アジア研究所専任講師。2006~14年に教授。著書に『憂鬱な国/憂鬱な暴力』『フロイト講義〈死の欲動〉を読む』など。

 どんよりとした厚い雲がたれ込めている。言いようのない不安が、ひたひたと迫ってくる。いまの欧州社会の空気をたとえるなら、嵐の前の、そんな不気味で不穏な気配になるかと思う。

 2月24日を境に、状況は一変した。ロシア、ウクライナ両国が国境付近でもめているニュースは、正直な話、それまで多くの人々にとって「またやっている」くらいの、ひとごとでしかなかったはずだ。それが、にわかに切迫した危機感へと転じたのは、首都キーウ(キエフ)への軍事侵攻が意外だったこと、そして原発の一時的制圧という衝撃の大きさではなかったか。つまり戦車やミサイルに加えて、原発の存在自体が相手の武器になる、重い事実が突きつけられた。それらが欧州の反ロシア機運を一挙に高めることにもなった。

 私の住むライプチヒは旧東ドイツに位置し、かつてはソ連の圧政下にあった。ウクライナと国境を接するポーランドともほど近い。戦禍は遠い抽象的な出来事ではない。その一端は日常の眼前に現れている。

 市庁舎前広場に足を運べば…

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