クリミア併合から始まった情報戦 ポスト真実というメディアの試練

有料会員記事ウクライナ情勢

[PR]

山腰修三のメディア私評

 ロシアによるウクライナ侵攻は長期化の様相を呈してきた。ウクライナの状況を伝える日々のニュースに心穏やかでないのは当然にしても、ロシア社会も気がかりである。ウクライナへの侵攻をめぐる、私たちからすれば荒唐無稽な、あるいは到底正当化しえない説明や物語を多くの人々が共有し、支持しているように見えるからだ。

 こうした社会が形作られる過程は2016年放送のNHKスペシャル「そしてテレビは“戦争”を煽(あお)った」からもうかがえる。この番組は、ウクライナにおける親ロシア政権の崩壊とその直後のロシアによるクリミア併合が生じた14年から2年間の両国の変化について、テレビ番組の制作現場に踏み込んだ取材から明らかにしたドキュメンタリーである。

 番組を改めて視聴して気づくのは、米国のトランプ現象を機に注目されるようになった「ポスト真実」と呼ばれる現象が、それ以前からロシア国内で深く根を張っていた点である。

 テレビ局のキャスターは、ジャーナリズムにおいて客観性はもはや存在しないとし、「我々にとっての真実を伝えるために自分の命をかけている」と主張する。記者たちは14年にウクライナのオデーサで発生した事件について、現地を取材することなくインターネット上の映像や画像を恣意(しい)的に収集・編集しながら、「ウクライナの過激な民族主義者が親ロシア派の住民を殺している」というストーリーを組み立てていく。

 こうして制作された番組を通じてウクライナに憎しみを募らせたロシアの視聴者に、自国の報道が虚偽の内容を伝えていた証拠を示しても、それを受け入れようとしない。まさに不正選挙騒動や連邦議事堂襲撃事件を通じて米国で、あるいはワクチン陰謀論をめぐって日本でも目にするようになった光景が、それに先立つ数年前にロシアですでに展開していたことが分かる。

 私たちは16年の米大統領選

この記事は有料会員記事です。残り1465文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【7/11〆切】スタンダードコース(月額1,980円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら