「ロシア将兵ら、日本の裁判所でもさばける」 専門家に聞く戦争犯罪

有料会員記事ウクライナ情勢

聞き手・武田肇
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 ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、「戦争犯罪」や「非人道的兵器」といった言葉がニュースに頻繁に登場しています。なじみのない言葉で、自分たちとはかかわりのない話だと感じている人が多いのではないでしょうか。しかし、国際法や国際人道法を専門とする真山全(まやまあきら)・大阪学院大教授は「日本にもできることがあり、ひとごとでない」と語ります。

――ロシアのウクライナ侵攻後、「戦争犯罪」という言葉を耳にするようになりました。そもそも戦争犯罪とは何でしょうか。

まやま・あきら

1957年東京生まれ。京都大大学院法学研究科博士課程修了。防衛大学校教授、大阪大大学院国際公共政策研究科教授を経て、2022年4月から大阪学院大国際学部教授。大阪大名誉教授。

 犯罪の概念や範囲は時代や社会によって異なります。江戸時代と現代では何が犯罪かは違いますし、日本の刑法と外国の刑法でも違いがあります。

 しかし、犯罪を処罰することには、罪を犯した個人に制裁を加えることで、社会の秩序を守るという共通のねらいがあります。

 では、国家が構成要素となる国際社会ではどうでしょうか。

 実は、ある国家が始めた戦争を国際社会が犯罪とみなしてその国家を罰することは、現在でも困難とされています。

 国際法に違反する戦争を始めた国家に賠償を求めることはできても、国家に刑罰を科せるという段階には至っていません。

 ただ、第2次世界大戦後、侵略を行ったとして、国家指導者個人を処罰する事例がドイツ・ニュルンベルクや東京での国際軍事裁判で見られました。国家そのものに刑罰を加えることはできないものの、個人を処罰することはありえることになったのです。

 「ロシアのプーチン大統領は侵略犯罪で裁かれるべきだ」と言われるのは、そういう意味からです。

――プーチン大統領を「侵略犯罪」で処罰するとすれば、どのような方法があるのでしょうか。

プーチン大統領は侵略犯罪に問えるか?

 ロシア軍によるウクライナ侵攻は、明らかに侵略です。1998年に採択された国際刑事裁判所(ICC)規程という条約に基づき、2002年にオランダ・ハーグに設置されたICCは「集団殺害(ジェノサイド)犯罪」「人道に対する犯罪」「戦争犯罪」の三つの罪を犯した個人を訴追し処罰する国際裁判所ですが、10年に規程が改正され、「侵略」も犯罪として扱うことになりました。

 ただ、ICCが侵略行為を主導した国家指導者を処罰するには、その国家がICC規程の締約国であり、かつ侵略犯罪に関する規程の改正を受諾していなければならないとされています。このようなしくみは、英仏などの国々の主導で設けられました。将来、自分たちが裁かれる可能性を小さくするためになされたといわれますが、日本もそのしくみを支持しました。

 ICC規程の締約国は123カ国ありますが、ロシアは入っていません。もちろん規程の改正も受諾していないので、ICCはロシアの国家指導者を侵略犯罪では裁けないことになります。

――ほかの犯罪はどうでしょうか 

 「集団殺害犯罪」「人道に対する犯罪」「戦争犯罪」の三つの罪に関しては、その領域で犯罪行為があった国家がICC規程の締約国であるか、ICCの管轄権を受け入れると宣言すれば、犯罪容疑者の本国が規程に入っていなくともICCは訴追、処罰できることになっています。

 ロシアとウクライナはどちらもICC規程締約国ではないのですが、ウクライナは管轄権を受け入れる宣言をしたので、日本を含め40ほどの国家がICCにウクライナの事態に関して付託しました。ICCの検察官によって実際に戦争犯罪などの捜査が進められています。

 ところで戦争犯罪を裁けるのはICCだけではありません。

ロシア軍の将兵ら、日本の裁判所でさばくことも可能

 世界の多くの国は戦争犯罪を国内法で裁くことができます。特に、1949年のジュネーブ諸条約と77年に追加された第1議定書にある「重大な違反行為」という戦争犯罪については、条約の締約国は自ら処罰するか、処罰のために容疑者を関係国に引き渡す義務を負っています。

 日本では長く国内法の改正がなされず、条約上の義務を完全に果たせるようになったのは2004年になってからです。たとえば捕虜の殺害といった戦争犯罪をしたロシア軍の将兵らが日本に旅行に来たとき、身柄を拘束して日本の裁判所で裁くかまたは処罰のために関係国に引き渡す義務を負っています。戦争犯罪をしたウクライナ軍の将兵らについても同様です。

――具体的に何を裁くことができるのでしょうか。

 ジュネーブ諸条約の「重大な…

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