犯罪被害者支援、条例広がらず 神奈川は2割 遺族ら「心のケアを」

足立優心
[PR]

 川崎、横須賀、秦野の3市でこの4月、犯罪被害者やその家族を支援する条例が施行された。ただ、神奈川県内33市町村で条例があるのは6市町にとどまり、条例制定が進んでいない状況だ。条例ができることで見舞金の支給や転居・カウンセリング費用の助成など経済的な支援ができるようになるため、被害者の支援団体は早期の条例制定や「心のケア」につながる支援を求めている。

 川崎市が条例制定の検討を始めたのは、2019年に市内で登校中の児童らが襲われ20人が死傷した事件がきっかけの一つだった。市では08年から相談窓口を設置し犯罪被害者を支援してきたが、条例の制定で家事や介護、保育の費用助成のほかカウンセリングの実施、緊急避難が必要な時に一時的に住居を提供するなど、中長期的な支援ができるようになった。

 まだ支援実績はないが、昨年度は47件だった相談件数が、今年4月の1カ月だけで20件程度になり、支援窓口の認知度の向上にもつながっている。担当者は「これまでは直接支援ができなかったが、条例によってセーフティーネットが実現した」と話す。

 04年に成立した犯罪被害者等基本法では、条例制定は義務ではないが、地方自治体が地域の実情に応じて被害者支援の施策を実施する責務があると定める。

 「相談窓口では支援に限度がある。条例制定で被害者に寄り添った形で生活再建の手伝いができるようになった」。19年に条例を施行した横浜市の担当者はそう話す。横浜市でも12年から相談室で支援をしてきたが、条例制定後は転居費用や生活支援の費用助成などの支援を実施。昨年度は見舞金20件、カウンセリング支援64件など計約100件の経済的支援を行った。

 ただ、他の都道府県と比べると、条例の制定率は高いとは言えない。犯罪被害者白書によると、21年4月現在、秋田、岐阜、奈良、京都、岡山、大分、佐賀の7府県で100%に達し、滋賀、三重、兵庫、長崎の各県では半数を超える。一方、神奈川は18%(33市町村中6市町)にとどまる。

 県内に条例が広がらない理由について県の担当者は「被害者側は市町村に支援メニューがないので相談せず、市町村側は被害者の相談がないためニーズが把握できていないのではないか」と双方の食い違いを指摘する。条例を制定していない、ある自治体の担当者は「ジェンダーや子どもの権利などと比べると、当事者の声が届きづらい。条例制定の機運につながりにくい部分がある」と話す。

 犯罪被害者の支援団体「ピア・神奈川」の代表を務める茅ケ崎市の渡辺治重(はるえ)さん(76)は、今年4月に新たに3自治体で条例が制定されたことについて「素晴らしいこと」と評価する。

 「誰に何を聞いて良いか分からず、本当に闇の中だった」。1995年に大学生の長男(当時20)を交通事故で失った経験から、被害者や遺族に同じ思いをさせないよう、自治体に被害者支援を訴えてきた。「ピア・神奈川」からの働きかけで、茅ケ崎市では2015年に条例が施行された。渡辺さんは「金銭的支援も必要だが、本当の立ち直りは心の問題」と強調。心理的ケアを中心とした支援の必要性を訴えている。(足立優心)